愛と狂気が交差する危うくも美しい世界

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映画レビュー】是枝裕和監督最新作 映画『空気人形』

 空気でふくらませる人形の彼女。彼女のお仕事はさびしがりやの男性のお話をじーっときいてあげたり、一緒にお風呂やお布団に入ってあげたりする事です。
 ある日の事、家に誰もいなくなってから外をながめていたら、窓をぬらす雨のしずくに心をうばわれました。
「 綺麗・・・ 」。
心がめばえた彼女は、おもちゃ箱のような小さな部屋を出て、おもちゃ箱よりもっといろんな生き物がいる世の中を探検しはじめます。そこにはご飯を食べては吐いてしまうという、ゴミの山に住んでいる女の子や、ニュースで見たことが自分のお話みたいになってしまうおばさんや、卵かけごはんをお茶碗ごと空中に投げてしまうおじさん、難しい言葉をたくさん知っているベンチに一日中すわったままのおじいさんなどがいて・・・

 映画は旧式ラブドールが心を持ってしまい、持ち主の家を抜け出し、外の世界で出会った人間の男性に恋をするというお話です。原作は業田良家の漫画『ゴーダ哲学堂 空気人形』。業田ワールド特有のもの哀しい笑いをちりばめながら、フランスの人形劇のようなシュールでスタイリッシュな世界を創りだすのは是枝裕和監督。あどけなさを残した透き通る演技でスクリーンに色彩を放つ空気人形役は韓国人女優のぺ・ドゥナ。空気人形がその大きな目で見つめる先をたどると、時には悲しいほど美しい東京下町の夕暮れ、土手向こうにきらめく青い空、隅田川を下る船の水しぶきが目に飛び込んできます。オルゴールのような音楽にのって金平糖の様に淡く甘い恋は、切ないエンディングへと向かいます。

 虚言癖の婦人や拒食症の女性など、現代社会の孤独な側溝におちてしまった空虚な登場人物たちと空気で出来た人形はどのようにかかわっていくのでしょう。帰らない母親を待つ子供と一緒になって食べものを床に投げる無邪気な彼女は笑いをさそい、擬似恋愛遊具としての記憶をもつ彼女が、熱をだしたおじいさんに「(おでこを)触って」と言われて布団に手を入れてしまうシーンや、足の間からジャバラのパーツを取り出して自ら洗うシーンは涙を誘います。

 シザーハンズ、フランケンシュタイン、キングコング、と違う世界の相手への恋心は儚く、涙がつきもの。しかしカンヌで喝采を浴びたと言われるこの映画が際立っているのは、スタインベックの二十日鼠と人間のような無垢が導く残酷さや、フィリップ・ジアンのベティ・ブルーのような、愛と狂気が交差するような危うい美しさが全体を包んでいるからだと思います。

 音楽も衣装もスタイリッシュで秀逸。業田×是枝×無限大のエンターテインメント世界をどうぞ。

是枝裕和監督最新作 映画『空気人形』公式サイト

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