ノーマライゼーションへの誤解とその定義
デンマーク福祉社会とバンク‐ミケルセンの思想と実践 第7回
身体に障碍のある人、精神に障碍がある人、もしくは高齢者も当然のことながら人間です。それも、人間が生きていく上で、ある部分が大変弱くなっている人間と考えられます。そのような人達へノーマライゼーションを適用するにあたっては、その解釈に留意する必要があります。ノーマライゼーションは誤解されやすい理念なのです。
ノーマライゼーションの誤解に至るプロセス
英語で考えてみると、normalizeの名詞形がnormalizationになると理解してしまいそうです。ノーマライゼーションをノーマライズするということからきていると考え、障害者や高齢者の弱い部分を普通に戻してあげるという解釈をする人がいます。このようなプロセスで、ノーマライゼーションを「普通にすること・一般的にすること」と解釈してしまうのです。
大熊氏[1]はこの誤解について以下のように述べています。
「『ノーマリゼーション』を辞書で引くと『状態化』『正常化』『正規化』と出てきます。けれども、こうした訳語を当てはめても、何のことやら、さっぱりわかりません。」しかし、実際にスウェーデンの施設を視察したあとで、以下のように結論づけている。「このとき、私はやっと気づきました。ノーマリゼーションのノーマルは『ふつう』という意味だったのです。」
バンク‐ミケルセン[2]自身も、以下のように論じています。
「この『ノーマリゼーション』という用語には語義上の問題があった。これを、精神遅滞の人々をいわゆる『正常人(normals)』に変えることだと誤って解釈する人々もいた。」
ノーマライゼーションの定義
前半で、障碍者や高齢者の弱い部分を普通に戻すことがノーマライゼーションですと誤解して解釈される場合が多いことを述べました。しかし、ノーマライゼーションはそれとは正反対の理念なのです。バンク‐ミケルセン[3]は以下の様にその理念について説明しています。
「ノーマリゼーションとは『正常なこと(normality)』を意味するのではない。精神遅滞の人が正常(normal)でないのなら、だれが正常なのか?正常(normality)であることは何か、そして、平均的人間でありたくないとしている人々への理解が深まっているときに、いったい誰が『正常(normal)』でありたいと思うのか?
ノーマリゼーションとは精神遅滞の人々の住居、教育、労働、余暇の条件をノーマル(normal)にすることを意味している。またそれは他のすべての市民が保持している法律的、人間的な諸権利を彼らにもたらすことを意味している。」
つまり、障碍者や高齢者のありのままの姿をすべて受容し、その人達が健常者と同じようなレベルで生活できるように「周りが変わる」ことが、ノーマライゼーションの理念なのです。そのために障碍者や高齢者をノーマルにしようとするのではなく、周りの生活環境を改善することによって、彼らが障碍を持ったままで普通の人と同じ生活ができるように変えていくこと、これが本来のノーマライゼーションの意味です。
バンク‐ミケルセン[4]も次のように述べて人々の誤解を正しています。
「障害がある人たちに、障害のない人びとと同じ生活条件をつくりだすことを『ノーマリゼーション』といいます。『ノーマライズ』というのは、障害がある人を『ノーマルにする』ことではなりません。彼らの生活の条件をノーマルにすることです。このことは、とくに正しく理解されなければなりません。ノーマルな生活条件とは、その国の人びとが生活している通常の生活条件ということです。」
つまり障碍を持っている人の生活条件を、障碍をもっていない普通の健常者の生活条件と同じレベルにまで、周辺が生活環境、生活手段を改善してひきあげることがノーマライゼーションなのです。
[1]大熊由紀子,1990年,『『寝たきり老人』のいる国 いない国』ぶどう社,pp.79
[2] N.E. バンク-ミケルセン、中園康夫訳,1978年,「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」,四国学院論集.No.43,pp.171
[3] N.E.バンク-ミケルセン,前掲「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」
[4]花村春樹 訳・著,1995年,『「ノーマリゼーションの父」N・E・バンク-ミケルセン』ミネルグァ書房,pp.167
佐藤豊:NPO法人や社会福祉法人で知的障碍者授産施設の経営、ヘルパーの養成に長年携わるなど福祉事業をライフワークとして取り組んでいる。早稲田大学公共経営学術院修士課程修了。岩手県一関市出身。
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