国際的に広がるノーマライゼーションの理念

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デンマーク福祉社会とバンク‐ミケルセンの思想と実践 第6回

デンマーク連載24回シリーズ 「ノーマライゼーション」の理念について、昭和56年(1981年)度版厚生白書では、次のように述べられています。

「近年、障害者福祉の理念として注目を集めているのが、『ノーマライゼーション(normalization)』の考え方であり、今日では福祉に関する新しい理念全体を表す言葉として、世界的に用いられるようになってきている。この言葉は歴史的にみると、スカンジナビア諸国を発祥の地として、『常態化すること』すなわち、障害者をできる限り通常の人々と同様な生活をおくれるようにするという意味で使われ始めたとされている。」

ノーマライゼーションの思想は、国際連合で採択された「精神薄弱者権利宣言」及び「障害者の権利宣言」の底流をなすものになっただけでなく、「国際障害者年行動計画」にも反映されています。

同行動計画には次の様な記述があります。

「障害者などを閉めだす社会は弱くもろい社会であり、障害者はその社会の他の者と異なったニーズをもつ特別の集団と考えられるべきでなく、通常の人間的ニーズを満たすのに特別の困難をもつ普通の市民と考えられるべきです」

この記述は、ノーマライゼーションの理念を明確にあらわしています。

ノーマライゼーションの理念の発祥と広がり

デンマークで、バンク‐ミケルセンが知的障害者の親の会の要請を文章化する過程で生まれたノーマライゼーションの理念は、1959年に知的障害者福祉法(1959年法・ノーマライゼーション法とも言われている)として法制化されることになりました。

今やノーマライゼーションの理念は世界中に広がっています

今やノーマライゼーションの理念は世界中に広がっています

このバンク‐ミケルセンのノーマライゼーションの理念を英文に訳し、広く国際的に広めたのが、スウェーデンのベンクト・ニイリエ(Bengt Nirje)です。 ニイリエはノーマライゼーションの原理を八つの原理に分けて示しています。 また、スウェーデンの行政官であったニイリエは、「バンク-ミケルセンから創造的刺激を受けた。」と述べたと言われています。

そして、ヴォルフェンスベルガー(Wolf Wolfensberger)は、アメリカ合衆国に適応するノーマライゼーションの概念を再構築していった。このようにノーマライゼーションが世界に広がっていった経緯は以下のように説明されています。

「通常化や正常化等と邦訳されるこの思想は1950年代のデンマークで知的障害者に対する巨大な収容施設保護による諸弊害の批判や反省の中から誕生し、60年代以降スウェーデンその他の北欧諸国に波及し、今日では国際的に普及している。知的障害者の領域から始まったこの理念は、一般的には障害者を含む社会的支援の必要なすべての人達に、普通の市民の通常の生活状態を提供することを目的に掲げている。

B.ニルジェ(Bengt Nirje)はこの基本的原理として、正常な日々の及び1週間・1年間のリズムが保たれること、一生涯を通じての通常な発達機会の保障、知的障害者の無言の願望や自己決定の表現の尊重、男女両性のある世界で暮らすこと、正常な経済生活・住環境水準の保障をあげている。

要するにこの原理は、知的障害者の独的ニーズの充足に加えて、平均的市民の住宅、所得、教育等々の標準的生活水準をかれらにも保障することを意味し、劣等処遇の原則の否定を前提として成り立っているのです。」

一方、米国にこの理念を導入したヴォルフェンスベルガー(Wolf Wolfensberger)は、『可能な限り文化的に通常です身体的な行動や特徴を維持したり、確立するために、可能な限り文化的に通常となっている手段を利用すること』と規定し、通常に近い行動や外観をとることさえ強調している。

この原理は障害者の生活水準を現実に高める役割を果たすとはいえ、適応 主義・同化主義に陥る等の問題性が指摘される。

しかし上述したように、この理念は『ある社会からその構成員のいくらかの人々を締め出す場合、それは弱くてもろい社会です』と表現されるように、障害者等を排除、差別した社会への反省にたって、障害者等も共に対等平等に生き得るように社会を変革していくという視点が含まれている。」

日本で「ノーマライゼーション」という語が文献等に初めてみられたのは、1974年の『愛護』という知的障害者親の会の誌上座談会からだろうと言われています。バンク‐ミケルセンについては、1978年に、彼の論文”The Principle of Normalization”(ノーマリゼーションの原理)が紹介され、1981年以降の厚生白書及び厚生労働白書においては、ノーマライゼーションの理念が毎年度必ず取り上げられます。日本では障害者福祉政策はノーマライゼーションの理念のもとで行うとされているのです。

しかしながら、バンク‐ミケルセンが唱えたノーマライゼーションの理念の正確な把握のもとに、日本という国にあわせたノーマライゼーションの理念の適用が成されているかどうかは疑問が残ります。


日本では厚生労働省が「ノーマライゼーション」という表記を用い、これにほぼ統一されてきている。したがって、本シリーズはこの表記に従う。デンマーク語では「Normaliserling(ノーマリセーリング)」と言う。バンク-ミケルセン自身は英語で話す場合には「ノーマリゼーション」と発音していたことをうけ、「ノーマリゼーション」を用いている文献・論文も多くみられる。これらについては、当該文献に忠実に引用した。
厚生省「序章 国際障害者年にあたって 第3節 障害者福祉の理念」 『昭和56年(1981年)度版厚生白書』
ベンクト・ニイリエ,河東田博・橋本由紀子,杉田穏子,和泉とみ代 訳編,2004年,『ノーマライゼーションの原理-普遍化と社会変革を求めて』,現代書館,pp.130
公的な福祉サービス利用者の生活は、平均的生活水準よりも絶対的に以下ですべきとする原則
1999年、『福祉社会事典』,弘文堂,pp.800-801

佐藤豊:NPO法人や社会福祉法人で知的障碍者授産施設の経営、ヘルパーの養成に長年携わるなど福祉事業をライフワークとして取り組んでいる。早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科修士課程修了。国会議員政策秘書資格認定。岩手県一関市出身。

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