ノーマライゼーションの3要素 後編
デンマーク福祉社会とバンク‐ミケルセンの思想と実践 第9回
ノーマライゼーションの理念を社会において適用させるために重要な要素が3つあるとして、バンク‐ミケルセンは次の様に述べています。
「生活条件(condition of life)は、住居の条件(housing condition)、仕事の条件(working condition)、余暇の(leisure)の三側面から検討しなければならない。」
前回は一つ目と二つ目の条件についてお話ししました。
3つ目は余暇の条件
障碍を持っていても、普通の市民と同じように、余暇を楽しむ権利をもっていることを忘れてはならないという考え方があります。
余暇に関しては、現在、日本においても障碍者のスポーツや芸術に関連して非常に盛んになってきています。生きていくには生活の潤いというものが必要になってきますが、周辺が努力をして、そういった余暇の条件をサポートすることが必要になってきます。
ここまでお話ししてきた住居の条件(housing condition)、仕事の条件(working condition)、余暇の条件(leisure)がノーマライゼーションの3要素の基本になります。
自然な性生活をする権利
その3要素にプラスして「自然な性生活をする権利」があげられます。中園氏[1]はバンク‐ミケルセンの論を以下のように解説しています。「『障碍者の性生活を自然な目で見ること』が重要なことであり、『自然な性生活をする権利』が地域社会の成人と同様にあたえられなければならないのです。」
ノーマライゼーション以前は、デンマークにおいても、キリスト教という問題もあり、知的障害者の男女の性に関しての配慮は遅れていました。それはバンク‐ミケルセン[2]によって以下のように述べられています。
「男性と女性をめぐる問題は当然のこととはいえ論議の的となった。デンマーク人が性の問題に対して進歩的な態度を取ってきたことはよく知られている。したがって、討論は外国に比べるとくつろいだものだったように思われる。しかし、論議の的になっているのが知恵おくれの人々です場合、この分野にしのびよる偏見が拡大されてきたという事実をはっきりと認識しなければならない。」
バンク‐ミケルセンは、男性と女性をめぐる問題解決のむずかしさについて、以下のようにも述べています。
「性生活の権利は人間の基本的な権利ですが、また、全世界のほとんどの場所で知恵おくれの人からうばわれていた権利でもある。デンマークでは原則として知恵おくれの人の性生活の権利がうけ入れられている。しかし、そこには手続きに関するたくさんの問題があり、この原則が全市民に受け入れられるようになるまでは長い時間がかかるだろう」
北欧デンマークは、スウェーデンも含めて自由恋愛の国ですと言われています、高齢者も障碍者も、夫婦生活や男女生活をエンジョイしている姿を、デンマークを訪れた際に多数目にしました。日本の場合には、障碍者や高齢者同士の恋愛については見てみぬふりしているという意識があるように思えます。しかし、健全で健康的な男女の性の楽しみを持つということも、人間らしい普通の生活をおくるためには必要なことなのです。
このように、全ての人間は平等という立場にのっとり、「障碍を持っている人の生活条件を可能な限り障害を持っていない人の生活条件に引き上げる」ために回りの環境を変えていくというのが、バンク‐ミケルセンが唱えるノーマライゼーションの理念です。そのためには、住居・仕事・余暇という3要素を見直し、「自然な性生活をする権利」を尊重していくべきなのです。
[1]中園康夫,1981年,「ノーマリゼーションの原理について(Ⅰ)-特に1970年代における若干の文献を中心にして-」pp.144
[2] N.E. バンク-ミケルセン,伊原成男訳,1977 年,「ノーマリゼーションの展開」,長野大学紀要,Vol.6, No.3,pp.54
佐藤豊:NPO法人や社会福祉法人で知的障碍者授産施設の経営、ヘルパーの養成に長年携わるなど福祉事業をライフワークとして取り組んでいる。早稲田大学公共経営学術院修士課程修了。岩手県一関市出身。
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