法の制定とノーマライゼーションの実現2
デンマーク福祉社会とバンク‐ミケルセンの思想と実践 第19回
バンク‐ミケルセンは、精神薄弱福祉部長に就任後、ノーマライゼーションがが急速に進んでいく状況は、バンク‐ミケルセン[1]が自身の論文で以下のように示しています。
可能なかぎり多くのクライエントに個室を与えることは最も重要な発展であった。1958年-59年の施設サービスは、諸外国と同様に、簡単な家具しかない部屋に30人以上もの居住者がいる寄宿舎に代表されるものだった。
デンマークでは、この巨大な住居条件(寝室)を解消するために不断の努力がなされてきた。その目標は、それから利益をえる全ての人々に個室を与えるということであった。これは幼児期をすぎた多くの精神遅滞の人々に利益となることが証明されている。
バンク‐ミケルセン[2]は表1から以下のようなことがわかると述べています。
- 居住施設のクライエントの数は殆んど増加していない。1974年当時のデンマークの人口では1000人について1.8%であり、1958年-59年の2.0%より現実には減少している
- クライエントの減少にもかかわらず、施設の数は54から126と増加している。このことは施設の規模が小さくなっていることを意味している
- 居住施設のカテゴリーが7から11と増加している
- 施設の機能や特徴が変化している。施設が快適な場所になったこと、職員は単なるクライエントの監督者の役割から特別の訓練をうけた有能な専門チームを形成していること、活動的な人間環境ができあがっていること、居住場所と仕事の場とが区別されていること、などが特徴となっている
- 居住サービスの減少は精神遅滞者が自分の家で家族と一緒に生活できるように家族を援助してきた結果であり、また若い精神遅滞者が独立してホームをもち、自立して生活するように援助してきた結果です。
また表2により、1971年の時点で、デンマークにおいて3700室のうち1474室が個室になっていることがわかります。1室のベッド数が4名以下の部屋が、62.6%を占めています。

表1 室数とベッド数 出典:バンク‐ミケルセン,中園康夫訳,1979 年,「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」『四国学院論集.』No.44,pp.187

表2 精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化 出典:バンク‐ミケルセン,中園康夫訳,1979 年,「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」『四国学院論集.』No.44,pp.187
一方、バンク‐ミケルセンは、コペンハーゲン市の知的障碍者施設で働く教員を養成する3年制の学校で教鞭をとりました。この学校が発刊した研究論文集「FLASH」には、彼の論文もいくつか掲載されています。しかし、バンク‐ミケルセンは、教鞭をとり研究をしているよりは、行政官としてノーマライゼーションを「実践」することに意義を求めていました。それについてバンク‐ミケルセン[3]は、以下のように述べています。
提唱した本人の意志に反して、ノーマリゼーションを、難解な原理のように受け取る人がいるのは不思議です。難解な哲学ではないのです。いたずらに難しく考える必要もありません。ごく当たり前のこと、ごく当たり前の考え方なのです。もし自分がその立場になったらどうあってほしいかを考えれば、そこから自然に導き出されてくる答えなのです
このような流れを受け、デンマークでは、1980年、障碍者のみをサービスの対象とする法律が廃止され「社会援助法」の中に統合されました。これが生活者支援法です。従来のような法律では、障碍者に対する「隔離主義」や「保護主義」につながり、ノーマライゼーションの実現に至らないと考えられたためです。法律を統合することにより、あらゆるサービスが1人1人の特別なニーズに応じて提供されることになりました。生活者支援法は、その時代にあったノーマライゼーションの実現のために、頻繁に改正されながら現在のデンマークの福祉制度を支えているのです。
[1]N.E. バンク-ミケルセン,中園康夫訳,前掲「精神遅滞者のための居住施設サービスの形態の変化」pp.169
[2]N.E. バンク-ミケルセン,中園康夫訳,前掲「ノーマリゼーション(normalization)の原理」pp.158
[3]花村春樹 訳・著,前掲書,pp.86
佐藤豊:NPO法人や社会福祉法人で知的障碍者授産施設の経営、ヘルパーの養成に長年携わるなど福祉事業をライフワークとして取り組んでいる。早稲田大学公共経営学術院修士課程修了。岩手県一関市出身。
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