見えないが、見える。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』

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 目以外のなにかで、ものを見たことがありますか?

 まっくらな中で五感をとぎすます。森を感じ、水の音を聴き、仲間と進む。まっくらやみのエンターテインメント、・・・それが、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』です。

 きっかけは、ドイツのラジオ局に事故で失明した若いジャーナリストの採用が決まり、局の社員が障碍者の若者とどう接していいかわからなかった・・・、そこからはじまりました。「彼を傷つけたくないし、かといって仕事はできるようになってもらわなければならない」。仕事を始める彼も不安でしたが、受け入れる方も同じく不安だったのです。

in the darkPhoto by Christina’s Play Place

暗がりの中で

 「どこかに彼をかわいそうだという気持ちがあるわけです。しかしつき合っていくにつれ、自分の認識が間違っていたことに気がつきました。健常者と比べられない、比べてはいけない世界があり、彼らには健常者の持っていない可能性があることに気がつきました」とそのときの上司は語ります。「彼とのつき合いで、目の見えないことによる強み、自分が持ちえない新しい繊細な感覚、彼の生活は、同情したり卑下するものではなく、素晴らしいものだということが分かったのです」。

 重要なのは、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』が、一種の視覚障碍疑似体験のように思われがちですが、決してそうではないことです。

 人は、最初やみの中に入ると、ショックを受け、不安になり立ちすくみ、恐怖を感じます。しかし、しばらくすると不安な状態を受け入れ、それを打開するための方策を探し始め、ガイド(視覚障碍者)の方に声を掛けられ動き始め、視覚以外の感覚を使うことを覚えます。手でまわりを探ったり、匂いをかいだり、またまわりの空気の流れも感じ始める。そして同じグループの人たちと声で情報を交換しあい、まわりの状況を把握していきます。視覚に頼っているときよりも、はるかに素直に話ができることに驚くのです。

 全く違った環境の中で不安を感じながら、自分の五感や人との関係を再認識することから他人や自分との対話が生まれてくるのを感じ・・・・、まっくらな中で、健常者と障碍者とが、一瞬にして逆転するのです。

 目の見えない人のためというよりも、むしろ目の見える人が新しい感覚や関係性を得るためもの、新しい感覚や新しい文化を知るためのものであり、生活環境、習慣の違う人たちと出会うためのプラットフォームなのです。この経験を通し、普段、五感のなかで視覚を中心に生活していることを知り、今まで持っていたあたりまえの概念が、変わってくるのです。

 ダイアログ・イン・ザ・ダークには、暗闇の中の対話、鳥のさえずり、遠くのせせらぎ、土の匂い、森の体温。水の質感、足元の葉と葉のこすれる枯れた音、その葉を踏みつぶす感触。仲間の声、乾杯のグラスの音、暗闇のあたたかさで満ちています。

 参加者は完全に光を遮断した空間の中へ何人かとグループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと探検し、様々なシーンを体験。その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、そしてコミュニケーションの大切さ、人のあたたかさを思い出します。

 世界 30か国・約110都市で開催され、2010年現在で600万人以上が体験したこのイベントは、1989年にドイツで、哲学博士アンドレアス・ハイネッケの発案によって生まれ、1999年以降はボランティアの手によって日本でも毎年開催され、約7万人が体験しています。2011年10月1日~11月23日まで展覧会も開催されています。

 私も以前参加しましたが、『五感を使う』ということはこういうことだと、身をもって体験しました。まっくら闇の中で、ずっと鳥肌が立つというか、鼻孔をくすぐられ続けるというか・・・。原始に戻って身体を洗いなおしたそんな気分でした(笑)。

 是非、参加してみてはいかがですか?
短い時間に、これほどまで感覚をとぎすます経験はなかなかないのではないと思います。

 
ダイアログ・イン・ザ・ダーク

ライター:野間能子 医療・スポーツ・美容・飲食など、ライフスタイル全般のプランニング、編集・執筆、商品企画などを行う。

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