50年続く、『匿名の方からのオルゴール』
50年続く、『匿名の方からのオルゴール』
卒業式、入学式のシーズンがやってきました。
今はもう、大人になってしまった方も、この時期になると、学生時代に感じた、あの気持ちを思い出すときがあるのではないでしょうか。
卒業式の物悲しさや達成感、入学式の不安や期待など、言葉にできないけれども、記憶に残っているあの感覚は、一生消えることはないかもしれませんね。
この季節になると、TVや新聞、ネットをはじめ、多くのメディアで取り上げられる、心温まる話題をご存知でしょうか。
『卒業式のオルゴール』といわれ、多くの方に感動をもたらしている、今の時代のおとぎ話ともいわれる実話です。
今から約50年前、1965年から毎年、匿名の女性からオルゴールが届けられている盲学校があります。
甲府市下飯田の県立盲学校(三枝正校長・全校生徒33人)では、毎年、行われる卒業式で、匿名の女性からオルゴールが贈られ続けています。
「卒業生は何人ですか」と、2月になると、女性の声で学校に電話がかかってきます。
「幼稚部から高等部まで、今年は、計8人が該当します」とお伝えすると、女性から頼まれたというタクシー運転手が、すべての卒業生のために、8つのオルゴールと点字の手紙を届けてくれるのです。
2014年にそえられていたお手紙には、「今後は、代理人がオルゴールを贈り続ける」と書かれていたといいますが、数年前の手紙に「80代を迎えて」とあったため、送り主は現在、80~90代の高齢女性だといわれています。
約50年の間、オルゴールを受け取った卒業生は、約600人を超えます。
学校側は、あえて女性を探さずにいますが、プリザーブドフラワーと、生徒たちのお礼の手紙を用意し、タクシー運転手に託したそうです。
こうして、毎年、卒業生にオルゴールが贈られるようになったきっかけは、1964年の冬、当時の学校の生徒が、甲府駅の公衆電話にクラリネットを置き忘れたことでした。
その話が新聞に掲載されると、同校に女性からクラリネットが届いたそうで、その翌年の卒業式からは、卒業生全員に、オルゴールが贈られるようになりました。
毎年の卒業式の式辞で、校長先生は、「今年も夢の小箱が届きました。社会にでて、辛いことがあったとしたら、このオルゴールの音色に耳を傾けてください。そして、いつも、応援してくれる人がいるということを忘れないでください」と、生徒たちに呼びかけるそうです。
今回のオルゴールの音色は、いきものがかりの「YELLY(エール)」で、卒業生は、卒業式の後、早速オルゴールを開けて、流れ出る優しいメロディーに耳を傾けていました。
今は60代になる卒業生を取材したTV番組では、学生時代は弱視だった生徒の様子を伝えていました。
だんだんと視力が弱くなり、失明してしまった現在、持っている荷物は、ほとんど処分してしまった。
しかし、この卒業式で贈られたオルゴールだけは、肌身離さず持ち続けているといいます。
「辛いことがあっても、このオルゴールの音色を聴くと、やさしい気持ちになるし、人にもやさしくできます」とコメントされていました。
人として生きていくこととは、どういうことなのか。
オルゴールを贈られた生徒の喜ぶ姿を見ながら、50年間続けられた匿名の女性の姿勢に、多くの方が、生きることについて考える機会を得るのではないでしょうか。
※参考資料:
読売新聞、NHK、毎日新聞、その他
http://mainichi.jp/select/news/20140312k0000m040107000c.html
ライター:野間能子 ノーマ・プランニング。医療・スポーツ・美容・飲食など、ライフスタイル全般のプランニング、編集・執筆、商品企画などを行う。