ノーマライゼーションが生まれた背景1

よかったら、シェアして下さい。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

デンマーク福祉社会とバンク‐ミケルセンの思想と実践 第12回

デンマーク連載24回シリーズ ノーマライゼーションがデンマークで誕生した背景には、様々なものがあると考えられますが、バンク‐ミケルセンが影響を受けたと考えられる要因に絞り込んで整理すると以下のようなものになります。

  1. 長い年月をかけた民衆運動により、平和主義と民主主義が確立されていた。
  2. グルントビーが創設したフォルケホイスコーレに代表される自由な教育・議論の場が存在していた。
  3. 優生学の思想による保護主義への反発から、知的障害者の処遇を改善しようとする活動が「親の会」によってすすめられていった。
  4. ナチズムへの抵抗がノーマライゼーションの理念を構築するエネルギーとなった。

今回はその1つ目をお話します。

平和主義と民主主義の確立

デンマークが北欧の強国から北欧の小国に衰退したことから、平和主義を目指すようになった歴史的経緯を、野村氏は以下のように説明しています。

「デンマークでは9世紀のヴァイキング時代に君主制が成立し、930年ごろゴルム老王と息子のハーラル王の共同統治によって現王室の基礎が築かれたといわれる。当時のデンマークは北ドイツ沿岸やスウェーデン南部を領有し、11世紀初頭にはイングランドを、さらにノルウェーをも支配下におく北欧の強国として名をはせた。デンマークはスウェーデンを1523年まで、またノルウエーを1814年までそれぞれ支配下に置いたが、やがてデンマークはスウェーデンとの戦いに敗れ、スウェーデン南部を失った。さらに、19世紀に入ってデンマークは、ナポレオン戦争でノルウェーをスウェーデンに割譲し、さらに1864年にプロイセン・オーストリア連合軍に敗れてプロシアに北ドイツを割譲したため、19世紀後半には北欧の小国に衰退した。」

「このようにデンマークは14世紀末までスカンジナヴィア王国として繁栄したが、たび重なる戦争などによって衰退し、政治的にも北欧諸国から孤立する。19世紀後半には国策(戦争)によって失地回復することを断念し、むしろ小国としての認識が芽生え、平和主義が自覚されるようになる。」

平和主義の国デンマーク

平和主義の国デンマーク

このように、戦争により国土を拡大することを放棄し、自国の土地を開墾し、農業大国として成長していく過程で、デンマークは平和主義を育んでいったのです。

福祉の制度やサービスの根底にあるのは、いうまでもなく人間の自由と尊厳を大切にし、人格として認め合い、人権を尊重するという価値観です。この価値観は民主主義の根底を支える根本的な原理でもあります。千葉氏は福祉国家デンマークを支えるのは、このような民主主義の思想なのだと強調しています。そして、それはデンマークの長い歴史のなかで確立され、根付いていったものなのです。

10世紀から始まったデンマークは、前述したように、17世紀後半から1848年までは絶対王政による支配が続きました。その間に農民を中心として、自由と平等を求める農民運動が始まったのです。野村氏はその経緯を以下のように述べています。

「農民運動は勢いを増し、1788年に半世紀にわたって農民の自由な移動を規制していた『土地緊縛運動』を廃止させるほどに高まる。この農村での改革によって、次第に土地を保有する農民層の増大と古い農村共同体の解体がすすんだ。農村社会の変化は、社会の矛盾に対する農民の意識を高めるとともに、自分たちの生活改善を目指す素地を育てたのです。」

「さらにデンマークでは18世紀のヨーロッパで大きな広がりを見せた啓蒙思想の影響や、近代的な義務教育制度(1814年)の普及と識字率の向上などによって、農村地域で1820年代の最初の民衆運動(宗教的覚醒運動)が起こる。この運動によって信仰に目覚めた人々による宗教集会、聖書による信仰の練磨がはかられ、同時にそれは日常生活に根ざした彼らの個人的な価値観を創出する内的な力となった。」

このような経緯でデンマーク民衆の民主化のエネルギーは高まっていき、1848年に絶対王政を終焉させ、自由憲法を制定するに至りました。さらに、自由、平等、社会的権利が確立するに従い、19世紀後半以後に民主主義を基礎とする近代国家を実現させていきました。20世紀に入ってさまざまな社会保障や福祉政策が次々と制度化され、今日のような世界的にも高い水準にある福祉国家に発展するのに至ったのも、その背景に民主主義の健全な発達があったからなのです。


野村武夫,「ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク」ミネルヴァ書房,pp.11-12

日欧文化学院(千葉忠夫講義録)

野村武夫,「ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク」ミネルヴァ書房,pp.11-12

佐藤豊:NPO法人や社会福祉法人で知的障害者授産施設の経営、ヘルパーの養成に長年携わるなど福祉事業をライフワークとして取り組んでいる。早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科修士課程修了。岩手県一関市出身。

あわせてどうぞ:

よかったら、シェアして下さい。

  • はてなブックマークする
  • あとで読む

フォローする