デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(2)

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デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」

一月、デンマークは一年のクライマックスとも言えるクリスマスと年越しの賑わいが通り過ぎた後、静かな日々を迎えます。「静かな」というのは、日常が戻ってきたという意味で、日本的な概念に置き換えると、「ケ」の日々が戻ってきたというべきかもしれません。子どもが待ちに待った夏休みを満喫した後、二学期を迎えて、学校に戻ることが嬉しかったりする、そんな感じでしょうか。

ハレの日の敬虔さや華やかさを満喫すると、ハレの日が終わることに寂しさを覚える反面、ケの生活に戻ることができる喜びを感じるものなのなのかもしれません。

12月下旬に冬至を迎え、一月に入ると日が少しずつ長くなっていきます。学校や仕事に出かける時間は真っ暗だったのが、だんだん明るさが戻ってくるのです。「わぁ、この時間がこんなに明るい!嬉しい!」と思った瞬間、心がヒュッゲで満たされます。心の中のろうそくに火が灯った感じでしょうか。この時期、夜明け前の蒼い刻を楽しむために、日の出の時刻より早めに家を出て、自転車でわざわざ遠回りをして、息を呑むように美しい蒼い刻を楽しみながら職場に向かう話もよく聞きます。そして、それがどんなにヒュッゲだったか、職場に到着した後、仕事を始める前にコーヒーや紅茶を飲みながら同僚と話すひとときもヒュッゲですね。

12月はクリスマスを迎えるお祝いやクリスマスのお祝いが続き、その後、年越しのお祝い行事が続きます。年を越してしまうと、元旦に年越しのお祝いで疲れた身体を休めて、2日からは正常稼働するのが一般的です。王室と官僚関係の年始行事は有名ですが、一般的にはごく普通に通常業務が再開されます。これもヒュッゲだったりします。え?と思われるかもしれませんね。でも、二週間くらいのお休みで家族や親族としっかりクリスマスを祝い、友人と楽しく年越しを過ごした後だと、いつもの自分の仕事に戻って、いつもの暮らしを再開することそのものもヒュッゲなのです。社会における自分の位置や役割を確認する一種の安らぎなのかもしれません。

1月は少しずつ日が長くなりますが、温かくなるのはまだまだ先です。零下になると空はすっきりと高くなり、空気は冷たいけれど湿気を感じないので、思ったほど寒く感じません。零下になる前の気温だと、たいていの場合、雲が重く垂れ込め、高めの湿気は雨に変わるので、寒さを零下の気候より厳しく感じるのです。そんな中、いつもの暮らしを再開する延長として、散歩やジョギングの時間を持って気持ちや身体をすっきりさせたい人は多いようです。私も近くにあるお堀の周りを散歩することを日課にしているのですが、しっかり着込んで散歩に出かけると、すっかり葉が落ちた木々の美しいシルエットや、湖にいる渡り鳥や白鳥の優雅な姿を眺めることができます。そんな風景を楽しみながら静かに散歩するひとときもヒュッゲです。散歩の時に冷たい風が頬にあたっても、完全防備をしていて身体の芯まで届いていないので、その風を冷たくて気持ちいいと思うかもしれませんね。それもヒュッゲです。でも、急いで仕事に向かっている時に冷たい風が頬にあたっている時にはヒュッゲとは感じません。ヒュッゲだと感じるためには、気持ちと時間の余裕が必要なのではないかと思います。

ヒュッゲは一人でも感じることができますし、複数の人と共有することもできます。私の場合、一月中旬から下旬に、一緒の時間を持つ友人がいます。日頃はお互いに忙しいので、ついついご無沙汰を続けるのですが、一月には必ず会うことにして、近況報告だけではなく、それまでのことやこれからのこと、家族のことなどを、居心地のよいカフェで食事やお茶をはさんで話すことにしています。年に二回会うことも三回会うこともありますが、一月には必ず時間をとることに決めて、三時間くらいの時間を一緒に過ごしています。お互いの価値観も職業も、そして年齢もかなり違うのですが、一緒に過ごす時間はヒュッゲそのものです。そして、お互いにエネルギーを充電して、今度会う時まで頑張ろうという気持ちになるのです。ヒュッゲのひとときは、心の余裕から生まれるので、心の充電時間でもあるのかもしれません。

ライター:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版される「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当している。

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