デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(5)

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3月は春待ち月です。デンマークの春は、私が生まれ育った広島と比べて1ヶ月遅れでやってくるように感じます。春の兆しをいろいろな形で感じるのが3月の楽しみです。春を告げる球根花は2月あたりから咲き始めますが、3月に入ると春を耳で感じることができます。

「春が近づいている!」と感じるのは、今まで静かだった早朝に「くろうたどり」の美しい歌声が響く瞬間です。3月に入ると、日の出の時刻は午前6時過ぎなので、雨でない日は明るい朝を迎えます。そんな日の日の出前、蒼い刻の頃でしょうか、「くろうたどり」の美しい音色が聞こえてくるのです。歌い手は「くろうたどり」の雄で、漆黒の羽に包まれた姿に鮮やかな黄色の嘴が印象的な美しい鳥です。日本で鶯が鳴くと春が来たなと感じるのと似ているかもしれません。くろうたどりの歌声はとても澄んでよく響き、一回の「公演」が何分にも渡ります。また、夜明けだけではなく、夕暮れにも美しい歌を聴かせてくれます。そして、なんと言っても素晴らしいのは、くろうたどりの歌は、春先だけではなく晩夏近くまでずっと楽しめることです。デンマークで暮らす人々にとっては、くろうたどりの歌声は、春の訪れとともに、待ちわびていた明るい季節の象徴とも言えるのです。

クロウタドリ

春を真っ先に告げてくれた黄花節分草(キバナセツブンソウ)が咲き終わる頃、クロッカスが芝生のあちこちで顔を覗かせます。クロッカスは白、黄、紫の花が大半ですが、黄花節分草(キバナセツブンソウ)とスノードロップの黄色と白い花を楽しんだ後は、紫のクロッカスが新鮮に映ります。黄色と白の明るく愛らしい色合いと異なり、深い紫は優美な印象です。

クロッカス

クロッカスは、黄花節分草(キバナセツブンソウ)とスノードロップに比べると少し大きめの花なので、公園の芝生一面を埋めるように咲いている様子は壮大にさえ感じます。この早春の美しい風景は、暗く湿った長い冬を過ごしてきた人々に本格的な春の到来を告げてくれます。最初の春の兆しを見つけた喜びとは違い、春が確実に近づいている確信を感じる喜びです。そして、この美しい風景を伴う散歩は、早春ヒュッゲの象徴で、この時期、クロッカスが一面に咲いている公園での散歩を楽しむ家族連れをよく見かけます。

クロッカスが咲く庭とお城

冷たく固い土に覆われている畑からルバーブが芽を出すのも3月。ルバーブは春一番に収穫できる食材で、蕗のような茎の部分を使います。野菜の一種ですが、使い方はくだものに類します。酸味が強いので砂糖と一緒に加熱してコンポートに仕立て、スイーツに展開することが多い食材です。畑で育てたルバーブは、食用部分の茎がある程度の太さになる4月中旬まで収穫を待たないといけないのですが、ルバーブの芽が畑から覗くと、それは嬉しい気持ちになります。そして、あと数週間でルバーブを使った料理やスイーツが作れることを待ち望むのです。春を待ち焦がれる気持ちや春を迎える喜びがルバーブに投影されるのですね。日本で蕗の薹や土筆などの春の野草を楽しむ感覚や筍を楽しむ感覚と似ているかもしれません。

赤いルバーブの花

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版される「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

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