デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(8)

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5月のデンマークは美しい季節を迎えます。木々は柔らかい若緑の新芽で覆われ、森や湖畔では鳥の雛を見かけるようになります。田園では、菜の花が満開になり、黄色の海のように波立って輝いている様子は、とても美しい光景です。この風景をデンマークの人々は口を揃えて「ヒュッゲ」だと表現します。デンマークには高い山が存在せず、どこまでもなだらかな丘陵地が続くのですが、麦畑や菜種畑の美しい風景を目にすると心が洗われます。春の光を存分に楽しみながら、命の芽吹きや躍動を感じる月です。

5月になると林檎の花があちこちで美しく咲き誇ります。デンマークにも「一日一個のりんごは医者知らず」という格言が存在し、多種多様なりんごが八月中旬あたりから一年を通じて楽しめます。りんごの花の蕾は濃い紅色なので、五分咲きくらいが最も美しいように感じます。一般家庭の庭や公園、森など、どこでも見かける木なのですが、八分咲きくらいになると、その芳香が辺りに芳しく漂います。

さんざしの花の美しさと甘い香りも5月の象徴です。さんざしの甘い香りはとても濃厚なので、花が咲いている辺りを歩くと、香りのよいリキュールでも楽しんでいる気分が味わえます。さんざしが咲き始めると、競うようにリラの花も咲きます。花の香りが高く感じられる早朝や夕食の後に散歩に出かけ、ここはりんご、ここはさんざし、ここはリラと、そこここに漂う花の香りをさまざまに楽しむことは、5月ならではヒュッゲです。

リラの花は香りが高いだけではなく、円錐形に房咲きになっている小花の根元を吸うと甘い汁が楽しめるので、この時期、子どもたちの通学路や校庭にはリラの花の房がたくさん落ちています。私より背が高くなった息子はもうすぐ13歳ですが「今でも花の蜜を楽しんでいるの?」と尋ねたら、「そりゃあ、そうだよ。とってもヒュッゲなんだもの」という答えが返ってきました。この時期には、4月に咲いていた黄色のたんぽぽの花がふわふわの綿毛に変わるのですが、たんぽぽの綿毛を吹き飛ばすのも5月のヒュッゲなのだそうです。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

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