デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(10)

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6月のデンマークは、初夏、輝きに溢れる季節です。デンマークの四季は、太陽の恵みで満たされる夏が三ヶ月と半年あまり続く冬の間に、春と秋が序章のような形で存在します。5月にようやく春がやって来たと思っていたら、あっという間に夏の到来です。芥子、マーガレット、野ばら、ハマナス、そして、エルダーベリーの花が6月を飾ります。

エルダーベリーは白い小さな花を咲かせる花木で、優れた薬効を持つとされ、古代から花も実も食用、薬用に重宝されてきました。芳しい香りの白い可憐な花が咲き誇る頃、その花をシロップ漬けにし、ソフトドリンク用の希釈液「コーディアル」を作り、初夏の香りを楽しむ習慣があります。このエルダーベリーフラワーの飲みものは、子どもにも大人にも人気があり、初夏を象徴するヒュッゲの重要な立役者です。

エルダーベリーの花が盛りを迎える頃、畑の苺も赤く熟してきます。北欧の気候で育つ独特のおいしさを感じます。苺は、デンマークの人々にとってヒュッゲの象徴のような食材で、旬の頃には、田舎の無人直売所でも新鮮な苺が並びます。

苺はそのままで申し分なくおいしいのですが、新鮮な生クリームとの相性も抜群です。苺を前述のエルダーベリーのシロップ漬けで軽くマリネしたものや、さっと火を通したコンポートもおいしいものです。また、苺とクリームをたっぷり使ったタルトやケーキなども6月を象徴するお菓子です。苺水や苺ジャムなど、初夏の風味を後々楽しむ方法も伝統的です。お店で何でも買える時代ですが、新鮮な完熟した食材で心を込めて作ったものには格別のおいしさがあるように思います。作るのもヒュッゲ、食べるのもヒュッゲで、おいしいヒュッゲがどんどん膨らんでいく季節です。

苺が盛りになる頃から新じゃがいもが収穫できます。新じゃがいもは小ぶりなものほどよいとされ、掘りたてのものは手で擦るだけで薄い皮がするっと剥けます。濃い塩水で茹でることが主流で、やっと中心に火が通ったくらいの硬さに頃合いよく茹でたじゃがいもを、パセリなどハーブ類のみじん切りと一緒に、澄ましバターとフレーク塩でシンプルに楽しむのも6月のヒュッゲです。デンマークの人々の新じゃがいもに対する情熱は驚くべきものがありますが、日本で新米を楽しみにする気持ちと似ているようにも思います。数年前に亡くなった父はおいしいものが好きな人でしたが、デンマークの苺と新じゃがいものおいしさは格別だと繰り返し言っており、6月の渡航を好んでいたことを懐かしく思い出します。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

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