デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(12)

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7月のデンマークは、待ちに待った夏本番を迎えます。まっすぐ伸びた茎に優しい色の花をたくさんつける立葵が古い街並みを飾る情景は、デンマーク人が口を揃えて「ヒュッゲ」だと表現する夏の美しい景色です。北欧の人々にとって、夏は太陽の恵みを存分に感じることができる輝かしい季節です。国中で夏を楽しむ雰囲気が溢れ、そのエネルギーの大きさに圧倒されることさえあります。夏至は過ぎましたが、朝は4時前には明るくなり、夜は10時過ぎても明るいので、一日の大半が明るさに満ち溢れています。気温は15〜25度で湿気が少ないので、避暑地のように気持ちよく過ごせる美しい季節です。

7月は家族揃ってヒュッゲを楽しむ月です。
デンマークの教育機関は6月下旬に学年末を迎え、二ヶ月近い夏休みが始まります。他の北欧諸国と同様にデンマークも両親がフルタイムで働いていることが一般的ですが、社会的に3週間以上の夏季休暇が保障されているため、親も3〜4週間の休暇をとり、家族揃って夏休みを満喫することが習慣化しています。休暇の前後は、学校でも職場でも休暇の話題でもちきりです。各々の観点での休暇への考え方や体験談を同僚や知人・友人と共有することで、ヒュッゲへのこだわりやヒュッゲを楽しむスキルが培われていき、徐々に自分らしいヒュッゲを選ぶ力と創る力に結びついていくように思います。夏の休暇で心身をしっかりとリフレッシュさせて、仕事や勉強を精力的に行えるエネルギーをチャージするという考え方が定着していることは、デンマークという国を支える底力となっているのかもしれません。

夏休みの楽しみ方は千差万別です。サマーハウスで、ゆっくりした時間を楽しむことが好きな家庭もあれば、サイクリング旅行やキャンプを連日楽しむ家庭、異国情緒の体験を楽しみにしている家庭など、いろいろな形があります。今年は新型コロナウィルスの影響で国内での休暇が推奨されており、博物館や動物園などの文化施設の利用料金や、小さな島々へのフェリー料金、サイクリング休暇への経費などに特別控除が施行され、国内での休暇が楽しめるようなプログラムが豊富に用意されています。

歴史的散策や博物館・美術館めぐりにも人気がありますが、ボートに乗ったり、海水浴をしたりという、海と一緒に過ごすヒュッゲは、周りを海で囲まれているデンマークの夏らしい情景です。また、太陽への憧憬が強いせいか、海辺や公園などでの日光浴も典型的な夏ヒュッゲです。家族や友人と一緒に食べたり飲んだりしながら、楽しくゆっくりとした時間を過ごすことは、デンマークの人々が年間を通じて大切にしていることですが、夏には公園や自宅のテラス、ベランダなど、屋外でその時間を楽しみます。庭やベランダなどで旬の食材を組み合わせたサラダ料理やバーベキュー料理を楽しむことにも人気があります。夕方から夜までのゆっくりとした黄昏時を親しい人々と一緒に過ごす時間は、素晴らしい寛ぎのひとときです。

デンマークのヒュッゲは食べごとと繋がっていることが多いのですが、夏のヒュッゲを代表するスイーツは、バターミルクのスープです。フレッシュなバターミルク(本来は生乳からバターを作った後に残る液体。商品化されています。)に発酵乳と卵黄でコクを加えた爽やかなスープで、夏の午後のおやつやデザートとして昔から愛されています。カマヨンカと呼ばれる甘さ控えめのビスケットを添えるのが定番で、スープをいただく直前に、ビスケットを好みの大きさに割ってスープに浮かせ、ビスケットのサクサク感を残しながら、スープとビスケット双方の味と食感を楽しみます。爽やかな気候と、冷たくほんのり甘酸っぱいスープの風味、そして、ビスケットを砕きながらスープにいただく手法が相乗効果を生み、このスープを囲む食卓の情景そのものが夏らしいヒュッゲだと言われています。この季節に採れるベリー類と一緒に楽しむこともできます。

畑や庭では、すぐりの実が熟してきます。丸すぐり、赤すぐり、黒すぐりなどが一般的で、それぞれ個性的な酸味と甘味を持っています。庭でたっぷり収穫できるのですが、買うとなると一般のスーパーでは入手できず、八百屋か青果市場まで足を伸ばします。ケーキやデザートの飾りや具材としても重宝しますが、砂糖でマリネしたり、コンポートやジャムにしてヨーグルトなどの発酵乳と一緒に楽しんだり、麦のお粥のトッピングとしても使います。肉や魚の焼き料理のつけあわせとしても使いますが、これは北欧全般の伝統的な手法です。すぐりが実る頃、ラズベリーやさくらんぼも熟し始めます。

7月下旬になると青々とした麦畑は、来月の収穫期に向けて黄金色に染まります。待ちわびた美しい夏があっという間に過ぎていくことを知っているデンマークの人々だからこそ、それぞれの方法で、夏ならではのヒュッゲを大切にそして存分に楽しむのだと思います。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

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