デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(15)

よかったら、シェアして下さい。

9月のデンマークは、夏の名残を留めながらも秋らしい空気に包まれます。デンマークでは、よい天気が続く8月中旬から下旬に麦の刈り入れが行われ、早稲のりんごや梨も8月末から収穫できるようになります。9月には、夏野菜やベリー類も名残のものが入手できますが、通年で使える野菜やくだものが初物として直売所やスーパーに並び始めます。

ンマークのくだものの代表はりんごですが、国産のりんごは5月あたりに入手が難しくなります。6月からは苺が豊富に収穫でき、すぐりやラズベリーも旬を迎えるので、夏はいろいろな種類のベリーを存分に楽しむ慣習があります。りんごとご無沙汰するのは、実質、百日足らずなのですが、早稲りんごが店に並び始めると、まるで、ずっと会っていなかった親しい友だちに再会したような深い喜びを感じます。地元で収穫されたた初物のりんごがもたらす喜びですが、りんごがどれだけデンマークで馴染みの深い食材であるかということにも改めて気づきます。デンマークでは、りんごを庭や果樹園で育てる暮らしが中世初期から定着しており、家庭にも学校にも、たいてい、りんごの木が植えてあるのですが、この時期には、おやつをりんごの木によじ登って確保する子どももたくさんいます。息子が通っている学校では、校内のりんごをもぐ仕事は3年生の担当だそうですが、3年生がとれない高いところになっているりんごは7年生が手伝うことになっているのだそうです。7年生の息子は、今年は校内のりんご狩りができると大喜びです。木の上で完熟のりんごをガブっと口にするのは、最高のおいしさだそうです。これもヒュッゲの形ですね。

や初夏に美しい花を楽しませてくれたさんざしや野ばらも赤い実を結びます。鮮やかな緑で覆われていた自然は、こっくりとした秋色に向かって、少しずつ黄味を帯びていき、お色直しを始めます。天気がよい日でも秋の風は冷たく、独特の調べがあるように思います。

9月は秋の野花も彩りを添え、ミツバチも最後の花蜜の収穫に大忙しです。一般の養蜂家は8月に夏の蜂蜜を集めるようにも聞きますが、我が家では9月にその年の蜂蜜を採集します。毎年楽しみにしている行事です。今年は4キロの蜂蜜が収穫できました。我が家の蜂蜜は、半年くらいでスプレッド状になりますが、採れたての蜂蜜はとろとろで、朝ごはんのオートミールやヨーグルト、薄焼きパンケーキにメープルシロップのようにかけて楽しみます。

海の近くでは、砂地グミが実をつけます。砂地グミは北の国の砂地に育ち、ビタミンCを始めとするビタミン群を豊富に含んでいるため、昔から重宝されてきた植物です。一度、凍らせて使うと柔らかい味になり、ジャムやソースに仕込み、お粥やスイーツだけではなく、料理にも使います。近年、世界的に注目されているノルディック・キュイジーヌでも登場頻度の高い食材です。

9月に入ると、夏至の頃、4時30分頃に迎えていた日の出が7時前になり、日没も22時から20時あたりに変化します。朝の通勤通学時はまだ明るいのですが、日照時間の変化により一日が短くなっていく感覚は、朝の空気がぐっと冷え込む秋分の頃からエスカレートするように感じます。外ではしっかり着込んだ姿が一般的になります。美しい夕焼けは夕食の後くらいに楽しめますが、夏特有の数時間に渡るゆっくりとした黄昏ではなく、小一時間くらいの幻想的な夕焼けが続いた後、夜を迎えます。

デンマークの首都コペンハーゲンの中心に存在する「チボリ」は、季節の花と美しい灯りで飾られ、異国情緒溢れる雰囲気と遊園地を併せ持つ庭園です。1843年にコペンハーゲン市とその界隈に住む人々の憩いのスペースとして生まれ、177年の間、老若男女、さまざまな社会層の人々に愛され続けてきました。一般的なアミューズメントパークとは一線を画し、美しい庭園内で音楽や食事を楽しめる上質なくつろぎの空間として、コペンハーゲンのヒュッゲを象徴する庭園です。

「チボリ」には1843年創立の世界最古の子ども音楽隊が存在し、創立当時から美しい庭園内を演奏行進する慣わしが続いています。デンマーク王立近衛兵を模したと言われる伝統的な衣装に身を包んだ姿はお伽話から抜け出たかのようで、子どもたちが奏でる質の高い音楽とともに「チボリ」のヒュッゲを具現化しています。「チボリ」は、現在、秋とクリスマス、冬にもそれぞれ一ヶ月近く開園していますが、15年ほど前までの約150年間、4月から9月までの夏半期のみに開園していました。夏は「チボリ」の夏季閉園とともに終わるというチボリ暦が、デンマークでは今も根強く残っています。「チボリ」が夏季閉園すると、デンマークの美しい夏の名残も静かに幕を閉じるのです。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

あわせてどうぞ:

よかったら、シェアして下さい。

フォローする

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください