デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(16)

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本文10月は秋たけなわ、色とりどりの野菜が店頭に並び、紅葉が美しい季節です。雨や嵐に見舞われ、気温は10℃前後、5℃あたりまで冷え込む日々が多くなります。冷え込みが厳しくなると、木々は、赤や黄色の葉で美しく彩られます。

10月に入ると室内で過ごす時間が多くなりますが、天気のよい日だけではなく、しとしと雨の降る日などにも、森や遊歩道を散策するひとときを見つけて、自然を楽しむことが大切にされています。雨が降ると、木々や苔などの色がひときわ冴え、香りも高くなるので、自然の息吹を存分に味わえます。また、落ち葉のカサカサする音、しっとりとした独特の空気、霧に包まれた幻想的な空間に心が躍ります。

10月にはマロニエの木に実がたくさんなります。デンマークでは完熟しないため、食用としては使えませんが、秋らしい風景です。マロニエの実をポケットいっぱいに拾って楽しんでいる子どもも多く見かけます。この時期、小さな子どもたちは、ウールの靴下とゴム長靴、ウールの肌着に撥水性のつなぎになっている防寒着といういでたちで外出しますが、雨が頻繁なので、水溜りでバチャバチャと楽しそうに遊んでいる光景をよく見かけます。小さな子どもの特権ですね。息子は13歳で、私よりもずっと背が高い少年ですが、散歩に出かけて水たまりを見つけると、今でも無性にバチャバチャと足踏みしたくなると言います。「小さな頃はゴム長靴を履いていたから、いつでも水で遊べてよかったよね。」と、自分が履いているスニーカーを見ながら呟いています。

10月の日の出は7時過ぎとなり、薄暗い時刻に学校や会社へ向かう季節を迎えます。夕暮れも18時前なので、帰宅後のほっとしたひとときや、家族揃って囲む夕食など、家の中での団欒を、キャンドルや間接照明を灯した薄暗い空間で楽しむ冬半期のヒュッゲが復活します。

10月中旬の「秋休み」は、その昔、各家庭が自家菜園で半自給自足の生活をしていた頃に由来する慣習です。当時は、大型の農耕機具が存在しなかったため、農家でも家庭菜園でも、芋や根菜の収穫と冬支度のためにあらゆる限りの人手が必要でした。そこで、子どもたちも当然の如く作業に駆り出され、学校に一週間のお休みが設けられたとか。今は「秋休み」という呼び方が一般的ですが、以前は「芋休み」と呼ばれていました。「芋」は、19世紀に普及し、慢性的な食糧不足に大きく貢献したじゃがいもを指します。各家庭で野菜やくだものを育てることが一般的ではなくなってしまった現在、秋休みは、夏休暇とクリスマス休暇の間にリフレッシュする一週間として位置付けられています。家族揃ってサマーハウスでゆっくりと過ごしたり、秋の森での散歩を楽しんだり、美術館などの文化施設をめぐったりすることが多いようです。今年はコロナ感染対策で不要な渡航の中止が勧告されていますが、例年、暖かさが残っているヨーロッパ南部などで休暇を過ごすことにも人気があります。

秋に収穫した芋や根菜は、それぞれを小山にし、たっぷりの藁で覆った上に土を被せて、冬の食料として大切に使われてきました。藁と土で覆う保存方法は昔からの越冬の知恵で、温度と湿度がほどよく保てます。いったん土が凍ると掘り返すことができなくなるため、10月に根菜各種の冬支度をする作業は、今も続いている慣習です。収穫が終わった畑には、霜が降りるまでに新芽が出るよう頃合を見計らって、麦や芥子を植えます。麦の新芽は、越冬後、春の到来とともに、ゆっくりと育ち始めます。また、芥子は春に耕すときの絶好の肥料になります。10月の新芽は、季節外れの「若い緑」が楽しめる独特の風景です。

デンマークでは冬に野菜を収穫することが難しいのですが、未結球キャベツのケールは、冬にも育つ代表的な野菜で、その深い緑の葉野菜は、何百年もの間、デンマークで暮らす人々の冬のビタミン源として、重要な役割を果たしてきました。デンマークの家庭料理には、ケールを使った料理が豊富に存在しますが、中でも、茹でてみじん切りにしたケールをホワイトソースで和えた一品は伝統料理ともなっており、冬半期によく作られます。

10月末のハロウィンは、秋の収穫を祝い、先祖の霊をお迎えするとともに悪霊を追い払う行事です。デンマークはかぼちゃの産地でもあるので、10月に入ると、ランタンに使うかぼちゃが、店頭に並びます。大きめのかぼちゃの種とワタを出し、悪霊を怖がらせて追い払うという魔除けの役割を果たすため、目と口と鼻をくり抜いて怖い顔を作り、中にキャンドルを灯します。このかぼちゃのランタン作りは、毎年の行事として、幼稚園や学校でも用意しますが、各家庭でも10月のお楽しみとして手作りのかぼちゃのランタンに灯りをともして楽しみます。街もかぼちゃの飾りで賑やかです。デンマークの10月には、かぼちゃがよく似合うように思います。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

写真撮影: Jan Oster

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