デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(17)

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デンマークの11月は、秋と冬の境を漂う月です。秋にも冬にも属さないように感じる11月の独特な存在感を、デンマークの現代詩人ヘンリック・ノアブラント氏は、次のように表現しています。

「一年は16月」
11月、12月、1月、2月、3月、4月。
5月、6月、7月、8月、9月。
10月、11月、11月、11月、11月。

デンマークは北欧諸国で最南に位置する国ですが、11月下旬の日の出は午前8時前後、日の入りは午後4時前なので、一日の日照時間は8時間前後、この時期には暗い時間に学校や会社を往復する人が大半です。気温は5°前後で朝夕の冷え込みが厳しくなります。渡り鳥は南へ向けて旅立ち、秋の名残を木枯しが吹き曝し、度重なる小糠雨や嵐で空気が湿り気を帯び、辺りの風景は徐々に冬の装いを漂わせていきます。

暗くて寒い朝夕に加え、日中も厚い雲に覆われることが多いため、気が滅入りがちな気候ですが、だからこそ、室内での居心地をよくし、少しでも暮らしやすいように工夫を積み重ねた結果として「ヒュッゲ」という心を温める概念や慣習が育ったとも言われています。11月は、ヒュッゲの根幹を感じることができる季節なのかもしれません。

夏の晴れやかで開放的なヒュッゲとは異なり、11月のヒュッゲは薄暗い空間や寒くてじめじめした気候をどのように楽しむか、という観点が核になっています。幸い、デンマークの住まいは気密性が高くセントラルヒーティング整っているため、気持ちのよい暖かさで暮らすことができます。家庭では、粘土や紙や毛糸などを使った工作や手仕事を楽しむ時間が多くなります。また、ざっくりした焼き菓子を用意して、おいしいコーヒーやお茶と一緒に週末の午後を家族や友人と一緒にゆっくり過ごすことも11月らしいひとときです。

ヒュッゲを楽しむ場所は部屋の中が多くなりますが、気持ちのよい速度で冷たく湿った空気を肌に感じながら歩く散歩も定番ですし、寒中水泳にも人気があります。寒中水泳は、心と身体をリラックスさせ、循環機能や免疫機能を高めると言われており、今年は、コロナ感染防止対策として免疫力アップを期待して始めてみたという声も聞いています。

11月に入ると一日の日照時間がぐんと短く感じられ、朝と夕方以降に灯りの美しさが楽しめます。午前3時頃には薄暗くなるので、夕方、街頭に飾られた灯りや家々に灯されたあかりを楽しみながら歩くひとときは心が温まります。

キリストの生誕日前夜である12月24日から4週間遡った日曜日が待降節の第一日曜日とされており、クリスマスのお祝いは、この待降節の第一日曜日を皮切りにさまざまな形で行われます。待降節はアドヴェントと呼ばれているため、待降節の第一日曜日は「第一アドヴェント」と呼ばれています。ちなみに、今年の「第一アドヴェント」は、11月29日です。待降節を迎える頃には、街中がクリスマスを祝う飾り付けで華やぎを増していきます。

待降節を迎える日が近くなると、花屋さんもクリスマスを象徴する花や飾りで華やかな雰囲気に包まれます。花屋さんが腕によりをかけて作った完成度の高い美しい飾りを求めることもできますが、クリスマス飾りに使うさまざまな材料も用意されています。クリスマスを迎えるにあたり、それぞれの家庭でクリスマスの飾りを準備することが楽しみの一つになっているように思います。

クリスマスの贈りものも11月に探し始める人が多いように思います。デンマークでは子どもばかりではなく、クリスマスを祝う晩餐を囲む親族それぞれにお祝いを用意する習慣があります。それぞれの顔を思い浮かべながら、喜んでもらえるものを探したり作ったりことは多くの人が楽しみにしている行事です。ショッピングに出かけた折に、お気に入りのカフェの温かな室内で、おいしいケーキに舌鼓を打ちながら、ほっとしたひとときを過ごすことも心と身体が温まる時間です。

11月も中旬を過ぎると、専用のフライパンで焼く「エーブルスキーバ」と呼ばれるまん丸の形をしたドーナツが恋しくなります。昔は一年中焼いていたそうですが、今は11月と12月の風物詩となっています。粉砂糖とベリーのジャムを添え、「グルック」と呼ばれるクリスマス・スパイスを効かせた香り高いホットドリンクをお供に楽しむことが王道です。赤ワインをベースにし、ポートワインやラム酒を加える形が定番ですが、白ワインをベースにした「白グルック」、低温圧搾したりんご果汁で作る「りんごグルック」なども存在します。レーズンやアーモンド・スライスをトッピングするので、アルコールの入っていないタイプは、子どもたちにも人気があります。木枯しが吹く中、冷たくなって帰宅した子どもを迎える温かい飲みものとしても重宝します。グルックの温もりもヒュッゲの象徴と言えるでしょう。

秋と冬の境に存在する11月は、待降節の到来で締めくくりを迎えます。クリスマスのお祝い行事が連なった厳かで華やかな12月の到来を待ちわびる気持ちが募ります。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

写真撮影: Jan Oster

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