デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(18)

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12月はクリスマスを迎える月です。クリスマスの準備は、キリスト降誕を祝う祭日である12月25日の4つ前の日曜日から始まる「待降節」から始まります。家庭でも学校でも、毎日少しずつクリスマスを迎える準備を整えていくのですが、家族や親しい友人と過ごす年忘れの楽しいひとときも組み入れ、学校でもクリスマスにちなんだ催しがあり、楽しみが盛り沢山の季節です。

12月は空が白み始めるのが午前8時から9時の間で、やっと暗さから抜け出したと思うと、午後3時過ぎには薄暗くなります。日中も厚い雲に覆われてどんよりとしていることが多いので、太陽への憧憬は強くなる一方です。北欧では、古くから冬至に命の源である太陽の力を祝う慣習があり、冬至に大きな篝火を焚いて、その年に収穫したものを捧げ、太陽の恵みである光を感謝する大きなお祭りを行なってきた歴史があります。電力が存在しなかった時代には、太陽の力を今よりも切実に感じたに違いなく、太陽の恵みや命の息吹を感じる春や夏に向かう第一歩である冬至を迎えることに大きな意味を持っていたのではないかと思われます。千年近く前にキリスト教が伝わり、太陽の力を祝う行事はキリスト生誕を祝う行事に変化しましたが、クリスマスを待ちわびる気持ちには、冬至を境に日が長くなっていくことを待ち望む気持ちが加わっているように思えます。

待降節には、アドヴェント・キャンドルと呼ばれる4本のろうそくを飾ったリースを飾りますが、アドヴェントの日曜日を重ねる度に火を灯すろうそくの数が増え、クリスマスが近づいてくることを楽しみます。1から24までの数字が記されたカレンダー・キャンドルには、12月1日から24日間、少しずつ火を灯します。アドヴェント・カレンダーも毎日の小さな楽しみです。クリスマスにちなんだ絵が扉の中に描かれている日めくりもありますが、小さな箱や袋にちょっとしたプレゼントが入っているカレンダーは、子どもだけではなく、大人もその準備を楽しんでいる人が多いように感じます。待降節にはクリスマスにちなんだお菓子や料理を少しずつ家族一緒に用意しますが、伝統的なバタークッキーもお茶の時間にクリスマスらしい華を添えてくれます。街を歩いているとシナモンが香るアーモンドの砂糖がけの屋台もクリスマスらしい風情に感じます。

12月13日に教会や学校などで行われる「聖ルチア祭」は心が清められるクリスマス行事です。12月13日は旧暦の冬至、一年中で最も暗い日で、魔除のために灯りを灯して祝う行事に由来するそうです。頭に4本のろうそくを乗せた少女を筆頭に、お揃いの白い衣装を纏った10歳前後の少年少女が、ろうそくを手にルチアの歌を歌いながら行進する様子は、幻想的で荘厳です。サフラン風味のふんわりした「ルチアパン」も12月13日に用意します。ドライフルーツを練り込んだ甘めのパンも待降節に楽しむパンです。

12月中旬が過ぎると、大半の家庭でクリスマスに飾るもみの木を入手し始めます。クリスマス・ツリーには本物のもみの木を求め、代々に大切にしてきたクリスマス・オーナメントや手作りのオーナメントを飾ります。クッキーやドライフルーツ、ナッツなどを飾りに使うのも伝統的な手法です。また、クリスマスが近づくと、キリスト誕生の場面を劇として再現した聖誕劇が学校などで催されます。家庭でも待降節から東方三賢者の日である1月6日までキリスト誕生を象徴する飾りを飾る習慣があります。

ホフマン原作「くるみ割り人形」でも描かれていますが、デンマークでも12月24日クリスマス・イブの夜に親族がそれぞれへの贈り物を携えて集まり、クリスマスのお祝い晩餐を大勢で楽しみます。子どもたちにとっては喜びと期待ではちきれんばかりの日ですが、大人はクリスマスを迎える準備にいろいろと忙しいことが多いので、晩餐が始まるまでの時間が長く長く感じられる一日でもあります。クリスマス・イヴの料理はローストポークか鴨のオーブン丸焼きが主菜となり、つけ合わせに赤キャベツの甘酢煮、茹でじゃがいも、じゃがいものカラメル煮、グレービーソース、赤すぐりのジュレを添えたりんごのコンポートを用意します。さっぱり感のある赤キャベツのサラダにも人気があります。デザートには、米のミルク粥のクリーム和えに温かいチェリーソースを添えます。ミルク粥のクリーム和えはよく冷やして深めの器に入れ、ホールアーモンドを一つ忍ばせ、テーブルでそれぞれが好みの量をとります。お楽しみは、自分の皿にホールアーモンドが入っているかどうか。ホールアーモンドにあたった人には、プレゼントが渡されるという遊び心たっぷりの慣習です。プレゼントには、上等なローマジパンで作られた伝統的な豚のお菓子を用意することが多いようです。

晩餐の後、もしくは、デザートの前に、美しく飾りつけをされたもみの木に沢山のキャンドルが灯され、晩餐に参加している人が全員、もみの木の周りをぐるりと囲みます。皆で手を繋ぎ、もみの木の周りを歩きながら、クリスマスの歌を何曲か歌います。デンマークのクリスマスらしい厳かで心が温まる慣しです。その後、もみの木の下に所狭しと並んでいる贈り物が、一つずつ、宛名が書かれた人に渡されます。贈り物は一つずつ開けられ、周りの人にも見てもらい、贈り主にも丁寧にお礼を言うので、かなり時間がかかるのですが、誰が何をもらって、どんなに喜んだかを共有できるので、楽しく幸せな気分に浸れるひとときです。

12月25日・26日はクリスマスの祝日です。デンマークでは、この祝日にも親族が集まり正午過ぎから正餐を囲みます。この正餐はスモーブロと呼ばれ、数多くのご馳走感の高い料理にライ麦パンなどの料理に合ったパンが数種類用意され、数時間かけて、料理と会話をゆっくりと楽しむオープンサンドイッチ形式の食事です。サンドイッチという名前ですが、手に持って頬張るのではなく、ナイフとフォークを使って食べる格式の高い食事です。デンマーク料理を代表する鰊のマリネで始まり、魚料理、肉料理、チーズ、デザートという順番で、数々の料理を楽しみます。スモーブロはデンマーク人にとって根幹となる料理で、デンマークのヒュッゲを象徴する食事文化です。

デンマークの一年は大晦日のニューイヤーズパーティーで幕を閉じます。クリスマスは親族で静かに厳かに過ごしますが、大晦日は友人と家族ぐるみで賑やかに一年を締めくくります。どちらもヒュッゲのひとときですが、全く異なる趣きを持っています。除夜の鐘の代わりに、花火を打ち上げ、シャンパンとローマジパンで作られた伝統菓子「クランセケーエ」を用意して華やかに新年を迎えます。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。コペンハーゲン在住。デンマークの「ヒュッゲ」と食文化に興味を抱いて30年近く、デンマークでの暮らしを実践。デンマークの高等教育機関で健康と栄養を専攻後、地元で丁寧に育てられた旬の野菜を主役にした身体に優しい料理を提唱している。菜食を伝統とするシュタイナー教育機関での献立指導とレシピ開発にも力を注ぐ。デンマークの文化を日本に紹介するつなぎ役として活躍する側面を持ち合わせる。今年4月に誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。

写真撮影: Jan Oster

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