デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(21)

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前回は「チボリ」正門から続く並木路の先にある「NIMB(ニム)」をご紹介しましたが、今回は、並木路の左隣にあるパントマイム劇場をご案内します。中国風の華やかな色彩と装飾が施され、現在、重要な文化財として扱われているパントマイム劇場は、1874年、敵国の侵入時にすぐに取り壊せるようにという国の意向から木と煉瓦で造られました。中国様式の建築と装飾、そして、劇場のこぢんまりとした大きさが「チボリ」のお伽話的な要素を具現化しています。

Photo:「パントマイム劇場」
コペンハーゲン市博物館所蔵
Pantomimeteatret i Tivoli ca. 1888.
Københavns museum
Photo: Jan Oster

パントマイム劇場には、孟子の言葉「楽偕民興」と書かれた看板が掲げてあり、「人々が一緒に楽しむ」を意味すると言われています。劇場正面には、羽を大きく広げた孔雀の意匠が施されていますが、この孔雀は劇場だけではなく「チボリ」の象徴ともなっています。舞台正面に鎮座している孔雀の羽は、幕が開き始めると、中央から左右にゆっくり畳まれ、幕が開いた時点で、孔雀そのものも舞台下に降りていく仕掛けになっています。そして、演目が終わると、孔雀が現れ、左右の羽が中央へ大きく広がり舞台を閉じる緞帳の役目を担っています。

Photo: Jan Oster
Photo: © Tivoli
演⽬が終わり、幕が閉じられる場⾯
ピエロが最後まで⼿を振ってくれるのが嬉しい。

電力が普及する前に建てられた建物は、大掛かりな孔雀の動きも手動で設計されているのですが、歴史的保存建築物として登録されている関係上、大掛かりな改修が難しく、150年近くたった今も、公演の度に、舞台下に控えている男性スタッフが4人掛かりで孔雀の胴体の上げ下げや羽の開閉を担当しています。邸宅の室内や森の中などの舞台背景も、やはり人の手で取り替えるように作られており、舞台裏に2名のスタッフが待機しています。

Photo: © Tivoli
孔雀の⽻は⼈⼒で広げる設計

この歴史的で美しく可愛らしい劇場では、ルネサンス期にイタリアで発祥した古典的なパントマイムと伝統バレエの技法を組み合わせたユーモラスな劇が、150年近く繰り返し上演され、「チボリ」を訪れる人々を魅了してきました。現在も16の作品が春と夏の開園期間に上演されています。上演時間は30分。第一次世界大戦時の灯火管制以来、続いている伝統です。裕福な家の美しい娘コロンビーナ、コロンビーナの父親、コロンビーナが慕う二枚目ハーレキン、コロンビーナを慕う三枚目役のピエロを中心に、滑稽で愛らしい話が展開し、コロンビーナとハーレキンが結ばれて幕が閉じるという趣向です。物語の中心人物で間接的に進行役も務めるピエロは、粉挽き屋という設定なので、粉にまみれた印象を与える真っ白な装束に大きな赤い口が特徴です。このデンマーク独特のピエロのキャラクターは、「チボリ」創立翌年の1844年にピエロ役としてデビューしたニルス・ヘンリック・ヴォルカーセン氏が、自ら「チボリ」のピエロとして活躍しながら、50年以上の歳月をかけてデンマーク独自のピエロ・キャラクターを練り上げました。バレエの要素が加わったパントマイム劇は、ユーモアと優雅さを持ち合わせ、デンマークの文化の特徴となっています。

Photo: © Tivoli
孔雀の⽻は⼈⼒で広げる設計
Photo: © Tivoli
パントマイム劇の中⼼⼈物である
ピエロ、コロンビーナ、ハーレキン

このパントマイム劇場は「チボリ・バレエ団」の本拠地でもあるのですが、20年ほど前からデンマーク王国の元首マルグレーテ2世女王陛下による舞台美術のバレエが数々催され、伝統の中に新しい息吹が吹き込まれました。

「チボリ」では、年に三回、春開園当日とクリスマス開園当日、そして、8月15日の「チボリ」開園記念日に、「ストロイエ」と呼ばれる旧市街の歩行者道路を練り歩く祝賀パレードを催し、人々と喜びを分かち合う慣習があります。*1 祝賀パレードは、ピエロを先頭に子ども音楽隊「チボリガード」総勢100名が、吹奏楽隊、鼓笛隊、鉄砲隊の三部隊で続きます。吹奏楽隊が奏でる伝統的で華やかな行進曲の合間に、鼓笛隊の可愛らしい演奏が加わり、アンデルセンの童話『錫の兵隊』から抜け出したような鉄砲隊の姿に観衆は特別な「ヒュッゲ」を感じます。

Photo: Jan Oster
街頭祝賀開園パレード。
デンマーク⽂化を象徴し祝賀装束に由来するチボリガードの制服は、今年で150 周年を迎える。
Photo: Jan Oster
気温30 度を超える夏の街頭祝賀パレード。
半袖シャツで演奏。
Photo: Jan Oster
クリスマスの飾りで華やかな街頭での祝賀パレード。

多くのデンマーク人にとって「チボリ」は家族代々で繰り返し楽しむ文化施設としての役割を担っています。肩や乳母車に乗った子どもが両親や祖父母と一緒にパントマイム劇を観るというのが「チボリ」デビューの王道のようです。そして、今は親となった我が子が初めて「チボリ」に来た日に思いをめぐらせたり、肩に乗っている我が子の重みを感じながら自分が幼かったときに感じた「チボリ」に思い耽ったり・・・。そんな家族連れの近くでは、年老いた婦人が杖を片手に毎週の楽しみにしているパントマイム劇を観るため劇場前のベンチに座って、辺りを楽しそうに眺めている・・・。「チボリ」は、さまざまな世代の特別な思いが交差する空間ですが、そこで感じるヒュッゲの形は訪れる人の数だけ多種多様です。ヒュッゲとは、日常的な時間の過ごし方から少しだけ離れて、気持ちのよい空間で、自分と向き合うひとときに起こる感情の総称なのかもしれません。

今回は、パントマイム劇場の象徴的なモチーフとなっている孔雀をテーマにした「孔雀の散歩道」*2と、デンマーク国王クリスチャン9世陛下の三女チューラ姫が 1871年に18歳を迎えたお祝いとして捧げられたポルカ「チューラ姫のポルカ」*3をご案内します。優雅で軽やかな曲を「チボリガード」吹奏楽隊による演奏でお楽しみください。




*1         今年の春開園では、コロナ感染防止のため開園記念パレードは行われません。
*2         「孔雀の散歩道」は、王立近衛兵の音楽指揮者としても活躍する作曲家デイヴィットM. A. P. パルムクエスト氏の作品です。
*3         「チューラ姫のポルカ」は、「チボリ」の初代音楽監督でデンマークを代表する作曲家としても名高いH. C.ロンビュ氏の作品です。

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