デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(22)

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「チボリ」の春開園は、3月下旬から4月初旬の復活祭の祝日に連動して設定され、球根花に彩られて幕を開けます。暗くて長い冬を過ごした人々にとって、色とりどりの球根花で彩られた「チボリ」の風景は、春を一足先に味わう特別感のある喜びです。*1

今年の春開園初⽇のしつらえ
Foto: Jan Oster
春の装いのプロムナード
Foto: Jan Oster
春のパレード
Foto: Jan Oster
パントマイム劇場付近の⽔仙畑。
24,000本の⽔仙が植えられている。
Foto: Jan Oster

今回は、前回ご紹介したパントマイム劇場に隣接し、150 年近くの歴史を持つレストラン「Grøften(グリュフテン)」とその先の建物をご紹介します。

チボリマップ© Tivoli
⻘で今⽉のスポットを⽰しています。
レストランGrøften 「グリュフテン」
Foto: Jan Oster

「グリュフテン」という言葉は耕道などにある排水用の溝を意味するのですが、周囲よりも低くなっている窪地に建てられているために生まれた愛称が時を経てお店の名前になったと言われています。パントマイム劇場に隣接しているため、屋根裏はパントマイム劇場の楽屋として使われ、舞台関係者で賑わう店でした。気球操縦士ラウリッツ・ヨハンセンは、130年前からチボリ園内で自らが操縦する気球を300メートル近くの高さまで上昇させて来客に空からの眺めを楽しませていましたが、1900 年から「グリュフテン」の経営を手がけ、著名人や報道関係者が集まる人気スポットに成長させました。

レストランGrøften 「グリュフテン」
Foto: Jan Oster

「グリュフテン」の名物料理は、玉ねぎとじゃがいもをたっぷり使い、ローリエと胡椒の風味を加えた牛肉の煮込み「ラブスコウス」です。気球操縦士ヨハンセンの肩書きを冠し「操縦士のラブスコウス」と呼ばれています。*2

名物料理「操縦⼠のラブスコウス」
Foto: Jan Oster

デンマークでは、親族が集まる食事会やお祝い会をお昼過ぎから夕方近くまでゆっくり楽しむ慣習があります。また、気候が穏やかになってくると、テラスやベランダで食事やお茶のひとときを楽しむ習慣もあります。小さな子どもが外で遊ぶ様子を視界に入れた上で会話や食事を屋外でゆっくりと楽しむことができるという観点から、「チボリ」の庭園に面したレストランは子どもが同席しやすいという定評があります。小学生や中学生にとっては、大人がゆっくりとしたひとときを楽しんでいる間に併設の遊園地で遊べるという楽しみもあります。「グリュフテン」はパントマイム劇場からの音楽やチボリガードのパレードが楽しめるロケーションなので、親族会などにもよく使われます。「『グリュフテン』ではヒュッゲなひとときが味わえるのよ。』という言い回しをよく耳にしますが、それは外観や料理だけを意味するのではなく、そこで何度も繰り返された親族や家族との楽しい思い出が土台になっています。

レストランGrøften 「グリュフテン」
Foto: Jan Oster
レストラン Grøften 「グリュフテン」
Foto: Jan Oster

「グリュフテン」の並びには1883年築の三角屋根が特徴の建物でレストラン「påfuglen(ポフールン)」があります。「ポフールン」は「孔雀」を意味します。パントマイム劇場の幕に大きな孔雀が意匠されていることもあり、孔雀は「チボリ」を象徴する鳥となっていますが、実際に「チボリ」には孔雀が棲みついており、自らの名を冠した「ポフールン」辺りで頻繁に愛でることができます。春から初夏にかけて孔雀の雄がその美しく艶やかな羽を大きく広げると、周りにはカメラを手にした人々や子ども連れの家族が群がります。

レストランPåfuglen 「ポフールン」
Foto: Jan Oster
レストランPåfuglen前を通るチボリガード
Foto: Jan Oster

「ポフールン」の先には多角形の建物があり、65年近くの間、伝統的なデンマーク菓子を供するコンディトライが営まれていました。現在は、イタリアン・レストランで、テラス席からは「チボリ湖」と呼ばれる池を眺めながら食事を楽しむことができます。

旧チボリ・コンディトライ
現在は、イタリア料理店Mazzolis「マッツォーリ」
Foto: Jan Oster
チボリ湖からの眺め
Foto: Jan Oster
チボリ湖の眺め・アンデルセンの館から
Foto: Jan Oster

この建物がコンディトライとして出発した1923年、園内で開催された国際ガストロノミー博覧会で発表されたのが、今日、デンマークを代表する生菓子として定着している「チボリケーキ」です。長年に渡り、チボリ名物の生菓子としてコンディトライで供されていました*3

チボリケーキ
Foto: Jan Oster
チボリケーキ
Foto: Jan Oster

多角形の建物の先には煉瓦造りで「アンデルセンの館」という名のお屋敷があります。「チボリ城」とも呼ばれているこの建物は「デンマーク国立工芸博物館」として利用されていましたが、1978年に「チボリガード」の拠点となりました。「チボリ」ではデンマーク王立近衛兵に倣い「チボリガード」の演奏室、更衣室、事務局からなるスペースを「兵舎」と呼んでいます。6歳から16歳までの子ども達100名近くが出入りし、合奏練習や個人レッスン、公演への着替えに利用しています。そして、「チボリ」園内でのパレードやコンサートなどの公演の際は、このお屋敷から出発する慣わしになっています。「アンデルセンの館」の道路向かいにあるコペンハーゲン市庁舎の鐘が定時を告げると、祝賀装束を身につけた子ども達が鼓手長を先頭に楽器や鉄砲を持って姿を表します。180年近くの歴史を持つ「チボリガード」は生きた文化遺産とも呼ばれ、デンマーク文化を象徴する役割として国内外で活躍しています。

アンデルセンの館
Foto: Jan Oster
パレード先頭の⿎⼿⻑のお出まし
Foto: Jan Oster
パレード前の整列
Foto: Jan Oster

今回は「チボリガード」の公演で必ず演奏する曲を二曲ご紹介します。

最初の曲はパレードを開始する時に使う「チボリガード・出発マーチ」*4です。この曲を演奏することで、チボリガードのパレード開始を合図します。

パレードの始まり
Foto: Jan Oster

チボリガードは鼓笛隊、鉄砲隊、吹奏楽隊の三部隊からなっていますが、三部隊が揃った公演では、デンマーク王立近衛兵の伝統をお手本にした国旗の移動を行います。その時に演奏する音楽「旗のマーチ」も合わせてご紹介します。お楽しみください。

パレードの締めくくり。
国旗を最初に兵舎へ戻す。
Foto: Jan Oster

*1  春開園で使われる球根花は総計で13,000本になります。

*2 Skipperには船乗りという意味もあり、この料理は航海時にも重宝されたことから、「船乗りのラブスコウス」という名称になったという一説もあります。

*3 「チボリケーキ」は、タルト生地にりんご煮のピュレを重ね、その周りにホイップクリームを絞り、上にラム種風味のグレースを施したメレンゲ菓子を飾り、赤すぐりのジュレで渦巻き状の模様を施した愛らしいケーキです。現在は、NIMB(ニム)直営のパティスリーなどで楽しむことができます。

*4 「チボリガード・出発マーチ」は、王立近衛兵の音楽指揮者としても活躍する作曲家デイヴィットM. A. P. パルムクエスト氏の作品です。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。広島女子大学卒業。デンマーク人の夫、ティーンエイジャーの息子と三人で、コペンハーゲンで暮らす。30年に及ぶデンマークでの暮らしを実践する傍ら、幅広い文献にも目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関でも健康と栄養の学位を取得。20年近く食分野を中心にデンマークと日本の文化を紹介する企画や執筆に携わっている。2020年4月には誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。www.kuramoto.dk

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