デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(24)

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デンマークの6月は、特別感が高い月です。春に古木を飾っていた柔らかい新芽は力強い枝葉に育ち、美しい木陰を恵んでくれます。若緑から深い緑に育った葉と艶やかに咲く夏の花々とのコントラストは陽の光を受けて眩いばかりです。

6月は夏至を迎えるため、日照時間が一年で最も長くなります。デンマークは北欧諸国の中で最南に位置するので、夜11時前には一旦、陽が沈みますが、まだ薄暗い時間に就寝し、目が覚めるとすっかり日が昇っているので、一日中ずっと明るいように感じます。6月下旬には学年末が重なり、卒業の打ち上げやお祝いなど、高揚感と開放感に包まれます。一般の人も7月から8月の間に三週間以上まとめてとる権利が保障されているので、6月は仕事納めの月でもあります。

今回は、180年近くの歴史を持つ総合文化施設「チボリ」の中で、コペンハーゲンが城郭都市だった頃に街の周りを囲んでいた水堀の一部がそのまま利用されている「チボリ湖」をご紹介します。

現存の「チボリ湖」は外と繋がっていないのですが、1843年の開園当時は、デンマークとスウェーデンの間に位置するオアスン海峡に繋がっており、ゴンドラなどで行き来ができました。コペンハーゲン旧市街の城郭の外に設けられていた水堀の一部という歴史背景と、数百年の樹齢の古木が立ち並び、美しい花々と異国情緒に彩られた景観を有する「チボリ湖」には、テーマパークと一言で片付けられることができない趣と気品があります。

湖には小さな橋が架かっているですが、この橋の片側はボートで楽しむ区域、もう片方には「聖ジョージ三世号」と呼ばれる船が停泊し、美しい眺めが楽しめます。また、湖の周りのレストランでは、湖の景観と湖畔独特の清々しい雰囲気が楽しめます。

「チボリ湖」の湖畔にある北欧的なかわいらしい木組みの小屋には小規模のビール醸造所を持ち合わせるレストランが入っていますが、この小屋を背景にした「チボリ湖」は、かつて、ミッキーマウスで成功を収めたウォルト・ディズニーが、第二次世界大戦後にテーマパークの建設を具体化させていく過程で、視察を目的に「チボリ」に足を運んだ際、チボリガードの子どもと一緒に記念撮影が行われた場所です。

「チボリ」には美しい庭園と並んで遊園地も開園当時から用意されていましたが、最も斬新で評判を呼んだのは生演奏の音楽でした。ラジオもテレビもレコードもない時代、音楽の生演奏が楽しめることは画期的だったのです。「チボリ」が創立された1943年は、開園日の8月15日から7週間のみの営業だったにも関わらず、当時、12万人だったコペンハーゲンの人口の1.5倍近くに相当する17.5万人の入園者が記録されています。

音楽と並んで斬新だったのは、ガス灯による灯りの演出でした。ガス灯は、1900年代に入って電飾に置き替えられましたが、現在も庭園の至るところで「チボリ」らしさを演出している小さなガラス製ドームは、当時からのデザインを受け継いでおり、「チボリ湖」の湖畔でもさまざまな色のガラス製ドームが湖を飾っています。灯りの演出は「チボリ」の魅力そのものと言え、夕方以降、「チボリ」園内のあちこちを美しく飾っていますが、「チボリ湖」では、ガラス製ドームでの堀端の装飾に加え、噴水と灯りによるイルミネーション・ショーも訪れる人を魅了しています。暗くなりきらない北欧の白夜を飾る水と灯りの共演はとても幻想的です。

夏至に近い6月24日はキリスト教の洗礼者聖ヨハネの生誕日です。前夜にあたる6月23日の夜、水辺に大きな焚き火を用意し、たくさんの人が集まり、賑やかに楽しく夏至を祝う慣習は、ヨーロッパ北部全般で見られますが、デンマークでも何百年も続いている伝統行事です。古代から、夏至には太陽の力が最も強くなるため、自然の偉大な力も夏至に最高潮に達すると言われ、夏至を皆で楽しく賑やかに過ごし、太陽の力を愛でることで災いを遠ざけ、幸運を呼ぶと伝えられています。

「チボリ」では、長年、6月23日に多くのイベントを催していますが、ハイライトは何と言っても「チボリ湖」で用意される焚き火です。この焚き火は、「チボリ」のお抱え少年少女音楽隊「チボリガード」のメンバー2名が、対でバイキング時代に所縁を持つ古代楽器「ルーア」を演奏した後に点灯するというプロセスが伝統となっています。
チボリガードが演奏する古代楽器「ルーア」2対は、デンマーク国立博物館所蔵のバイキング時代から伝わる「ルーア」から忠実に再現されたもので、世界でただ一組の演奏可能な「ルーア」です。「ルーア」の演奏の後、焚き火に火が灯ったところで、コペンハーゲン少年合唱団がその美しい歌声で賛美歌の合唱を披露するのも毎年の行事です。

さて、今回ご紹介する曲は、デイヴィット・M・A・P・パルムクエスト氏の作品「チボリの夜」です。

この曲は、全五楽章からなる「チボリ組曲」の第四楽章です。暗くなり切らない夏の夜、さまざまな照明に彩られ独特の雰囲気を持つ「チボリ」での幻想的でロマンチックな夜を奏でます。お楽しみください。


執筆:くらもとさちこ
www.kuramoto.dk
広島県出身。コペンハーゲン在住。
30年近くデンマークでの暮らしを実践する傍ら、幅広い文献に目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。
デンマークの高等教育機関で健康と栄養の学位を取得。
法人・教育機関でアドバイザーやコンサルタントとして従事する傍ら、デンマークと日本の文化の一端を紹介する企画や執筆に携わっている。

カラー写真: Jan Oster 
図・白黒写真: © Tivoli
絵: Skak-Nielsen, Luise ”Tivoli og Verden udenfor”より抜粋

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