デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(26)

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デンマークを象徴する文化施設「チボリ」は、1843年8月15日に開園しました。この開園記念日は「誕生日」と呼ばれています。今年は178回目の誕生日を迎えました。デンマークでは子どもも大人も誕生日を祝う慣習があり、家族と祝うだけでなく、職場や学校、習い事先などでもさまざまに祝います。国旗が賑やかに飾られるのも特徴です。職場や学校では、周りの人がお祝いを用意するのではなく、誕生日を迎えた本人がお気に入りベーカリーのデニッシュや自家製のケーキなど大勢の人に喜んでもらえるものを持参して、周りの人と誕生日の喜びを分かち合います。とても素敵な習慣で、デンマークらしいヒュッゲを感じる情景です。法人や団体でも「誕生日」を祝います。

「チボリ」の誕生日には数々のお祝いの催しが繰り広げられ、園内にも特別な雰囲気が漂います。「チボリ」を象徴する「ピエロ」と「チボリガード」によるコペンハーゲン旧市街での祝賀パレードは、市民と「誕生日」の喜びを分かち合う行事です。本物の熊の毛で一つ一つ手作りされた帽子と布を染めるところから別注で仕立てる赤いジャケットには美しい装飾が施され、デンマークの「祝賀」を体現しています。今年150周年を迎える祝賀装束を身に纏った「チボリガード」がパレード出発地点である「デンマーク王立劇場」前の広場に到着すると、あっという間に人だかりができ、幅広い年代の群衆が行進を待つ様子は、喜びと期待に満ちています。誕生日のお祝いが大好きなデンマークの人々を象徴するヒュッゲな情景です。

祝賀パレードは、所要30分、旧市街の目抜き通りを行進し「チボリ」に向かいます。華やかな行進曲を演奏しながらの凱旋パレードは、先頭がピエロ、次に鼓手長が1894年から大切に継承されている指揮杖で、吹奏楽隊、鼓笛隊、鉄砲隊の3部隊93名を先導します。街頭にはパレードを楽しむ人で溢れかえり、「誕生日」の喜びを共有します。今年は「チボリガード」卒団者の会が結成100周年を迎えたため、約60名の卒団者が記念徽章を胸にパレード後列に加わりました。80歳を過ぎた現役音楽家から卒団したての17歳の青年まで幅広い参加が印象的でした。

音楽研究家ヘンリック・エンゲルブレット氏が著書で「世界で唯一、交響楽団を所有する民間企業」と記述しているのですが、「チボリ」は1843年当初から自らの音楽団とコンサートホールを持ち続けてきたことに特徴があります。音楽配信はもちろん、ラジオもレコードも存在しなかった時代、音楽の生演奏の魅力には斬新なジェットコースターもサーカスも太刀打ちできませんでした。

「ワルツの父」とも呼ばれるヨハン・シュトラウスに感化された作曲家ハンス・クリスチャン・ロンビは、1843年の開園当初から生涯にわたって「チボリ」で音楽監督を務め、自ら率いる楽団で、ウィーン到来の最新音楽だったワルツやポルカ、マーチを演奏し、自身も800曲以上の作品を書き遺し、人々はその音楽に酔いしれました。1843年発祥のロンビ音楽団は、今日、「チボリ・コペンハーゲンフィル」という名前で幅広く活躍しています。「チボリ」の「誕生日」祝賀コンサートは「チボリ・コペンハーゲンフィル」の演奏で、デンマークで二番目の規模を持つ「チボリ・コンサートホール」で行われます。

現在の「チボリ・コンサートホール」は1956年に建てられた三代目のホールです。外装には、ロンビの代表作「シャンパン・ギャロップ」の楽譜が意匠され、ホール前の庭園にはロンビの彫像が立っています。よく手入れの行き届いた美しい庭園や噴水、お伽の国から抜け出したような空中ブランコなどに彩られたコンサートホールは、世界中を探しても他に見当たらないでしょう。地下ロビーには壁一面に立派な水槽がしつらえてあり、ヨーロッパ一の長さを誇る水族館となっています。ここでは、ワインを片手に海の生き物の様子を眺めながら会話を弾ませている人を多く見かけます。

「誕生日」の閉園前には、大掛かりなお祝い花火がコンサートホールの屋上から盛大に打ち上げられます。元々、打ち上げ花火は「チボリ」名物で開園当初からの伝統で、今季は土曜日と特別な日に閉園30分前の23:30から打ち上げられています。「誕生日」を祝う盛大な花火は、街頭パレードと同じようにコペンハーゲン市民と喜びを共有するという考え方が土台となっています。

今回の音楽は、チボリの初代音楽監督を務めた作曲家ハンス・クリスチャン・ロンビの「シャンパン・ギャロップ」を「チボリガード」による演奏でご紹介します。この曲にはシャンパンを抜く音が散りばめられており、お祝いにふさわしい華やかな曲で「誕生日」祝賀コンサートでも必ず演奏される曲となっています。この曲をお楽しみいただくことで、みなさんと一緒に「チボリ」の誕生日のお祝いを共有できれば嬉しく思います。

<ご案内> インスタグラム@tivoli.og.tivoligardenで「チボリ」と「チボリガード」の折々の様子をご紹介しています。また、www.kuramoto.dk および @sachikokuramoto.dkでは、デンマークの暮らしや食べごとについて投稿しています。フォローで応援していただけると嬉しいです。また、お知らせメール配信登録なども合わせてご検討ください。よろしくお願いいたします。

執筆:くらもとさちこ
広島県出身。コペンハーゲン在住。
30年近くのデンマークでの暮らしの中で、幅広い文献に目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関で健康と栄養の学位を取得後、料理講座を担当するほか、法人・教育機関で食育や献立に関するアドバイザーを務める。

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