デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(33)<グレネスミネでの四季折々・3月>

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デンマークの三月は、クロッカスや早咲きの水仙が美しい季節です。まだまだ野外の木は裸のままで、畑も殺伐としていますが、動物たちの防寒着が必要なくなり、空を高く感じる日も多くなり、遠くからの春の気配が楽しめます。

特別な支援を必要とする人々が意義ある暮らしを営める力を育むお手伝いをするソーシャルエコノミー企業*『グレネスミネ』の厨房部『グレネスミネ・キッチン』の主な仕事は、グレネスミネの各部署で働くスタッフに向けたランチ。月曜日から金曜日までの5日稼働で一日あたり80〜120食を用意しています。 そして、グネレスミネのイベント会場『コペンハーゲン・ドーム』で提供する食事と一般家庭や企業への仕出しにも対応しています。

『グレネスミネ・キッチン』で使う食材は、全てオーガニックです。グレネスミネの園芸部で育てる野菜は販売を対象にしているので、年間を通じて一日100食前後の食事の準備には卸業者から食材を仕入れます。「オーガニック食材はずいぶん割高になるけれど、旬の野菜をたっぷり使うことでコストを抑えているよ。幸い、野菜の下処理が得意なメンバーが多いからね、助かるよ。」と厨房部主任のラスムスさん。

ランチの献立は、メイン料理が一品、野菜料理が一品というスタイルで、ベジタリアン料理と魚を使った料理が週に一回ずつ組まれています。取材に行った週の献立を以下にご紹介します。

月曜日    ひき肉ステーキ、マダガスカルペッパーソース、ローストポテト、ハーブバター

    いんげん豆、ほうれん草、ドライトマト、エシャロッテのサラダ

火曜日    ペルシア風野菜と豆の煮込み「サブジ」、フムス、ハーブ入りサワークリーム

   パセリとミントたっぷりのタブーレ・にんにく風味

水曜日    鶏肉のマリネ・ロースト、ラタトゥイユ、ギリシャ風ヨーグルトときゅうり

    のディップ「ザジキ」

    カリフラワーのロースト・ロメスコソース和え・アーモンド・

   えんどう豆のスプラウト

木曜日    フィッシュ&チップス、タルタルソース、フライドポテト、レモン

                   マッスさんのマッシュドグリーンピース

金曜日 ライ麦パン

               厨房おまかせ料理

金曜日のおまかせ料理は、その週の食材や料理を使い切ることを念頭に置き、食品ロス率を下げる努力を行なっています。

「ピザやハンバーガーは安いしすぐ買えるから、自分で作るのが面倒臭いからと頼ってしまう人が多いと思うけれど、ランチを通じて幅広い料理や食材を体験したり、野菜たっぷりのごはんは身体に優しいということを実感することは、今後の生活にもきっと役立つと思っているんだ」とラスムスさん。

毎回用意するランチの多くが特別支援プログラムを利用している若者のお腹に入ることを考えると、ラスムスさんの目線での献立にはとても温かいものを感じました。

厨房では、特別な支援を必要とする若者12名を料理人2名と常勤スタッフ2名が応援する形で稼働しています。常勤スタッフは、この厨房で特別支援プログラムを受けた後、グレネスミネの正社員として雇用された経歴の持ち主。10年近く勤続している「お手本」のような存在で、厨房でアシスタントと洗い場担当の二人です。どちらもここで働くのが大好きだそう。同僚と一緒に働く喜び、社会に貢献していると実感できることが生きがいに結びつくという考えが具現化されていました。

グレネスミネの厨房部『グレネスミネ・キッチン』の一日は、主任の料理人ラスムスさんとマッスさんの出勤時間8時に始まります。他のスタッフの出勤時間までの30分、二人は当日と翌日に予定されている行事と献立を確認しながら、その日の仕事を一つずつボードに書き出していきます。

「こうすれば、どんな仕事があるか一見できるし、それぞれがしたい仕事を選べるから便利だよ。最初の仕事を終えて、次の仕事にかかりたい場合も、何に取り組めばよいか、すぐわかるしね。」とマッスさん。

厨房スタッフの始業は8時半。「将来、どこで働いても始業時間を守ることは大切だから、ここでも始業時間の遵守を大切にしようと話しているんだ。」とマッスさん。

集まったスタッフは、一日の仕事の流れの説明を受けながら、当日の調子や意欲に合わせて、ボードに書かれた仕事の中から自分のしたい仕事を伝え、料理人二人が全体をまとめます。

説明の後は、毎朝届く食材の搬入と仕分け。9時から10時までの1時間、前日の仕込み分と当日の調理分を組み合わせてランチを準備します。10時からの20分が休憩時間。その後、最終的な仕上げを行い、11時までに部署別にランチを分けていきます。

グレネスミネはコペンハーゲン郊外にある事業所が二箇所に分かれており、その往復には車で10分ほどかかります。事務局と厨房が同じ建物にあり、別の場所にイベント会場『コペンハーゲン・ドーム』、園芸、動物飼育、鍛冶・木工房・グリーンサービス、カフェ、ベーカリーが集まっています。ランチは部署別にとることになっているため、厨房では部署別にランチを分けて搬出します。厨房から離れている部署への配達には、ワゴン車が一日一便で運行。前日に使った容器や『グレネスミネ・ベーカリー』の焼き立てパンを載せた車が厨房へ到着するのが10時半。部署別に梱包されたランチの他、注文が入っている日には『コペンハーゲン・ドーム』で使う食事も車に積み込まれ、11時過ぎに厨房を出発します。

「厨房での仕事は時間的なプレッシャーがかかることも少なくないけれど、ここのスタッフには楽しく仕事ができる環境を作りたいんだ。」とラスムスさん。ランチの仕上げは時間や内容を細かく確認しながらの作業なので、時間的に余裕が少ない部分は料理人二人が仕事を分担して行うなど、スタッフに過度の負担がかからない配慮が印象的でした。取材日には『コペンハーゲン・ドーム』で提供するサンドイッチの注文が入っていたのですが、10時半に運ばれてきた『グレネスミネ・ベーカリー』焼き立てのパンを使って11時の出発までに3種類のサンドイッチを合計14個作るという作業は、ラスムスさんが手際良く行なっていました。

翌日に使う仕込みの大半は、前もって野菜を適切な大きさにカットしておくこと。マリネや冷蔵できるソースも前日から用意します。今回のメンバーは去年の9月から厨房での仕事を始めたそうですが、手慣れた手つきの元、大量のカリフラワーがどんどん小房になっていきました。その傍らでは、使われた調理道具や食器を2名のスタッフがテキパキと片付けていました。

11時半からの30分は厨房スタッフのランチタイム。一緒に働いている仲間との食事は楽しい時間です。食堂から愉快な笑い声が何度も聞こえました。厨房スタッフのランチタイムの後は、事務局分のランチが配膳されます。そして、厨房スタッフは、残っている仕込みに取り掛かり、厨房の掃除に入ります。

料理人二人は、仕入れの手配や献立作成、ケータリングへの応対などの仕事が続きますが、他のスタッフの一日は、13時辺りまでに厨房をきれいに洗い清めることで幕を閉じます。

仕事の流れをよく理解し、自分が興味のある仕事は何かに耳を澄ましながら、その日の課題に楽しそうに取り組んでいる様子は気持ちのよい光景でした。

* 註: ソーシャルエコノミー企業の説明については、こちらの記事をご覧ください。

<謝辞> この記事の執筆にあたり、グレネスミネ広報部・厨房部スタッフのご了解とご協力を賜りました。ここに感謝の意を表します。

写真撮影: Jan Oster                                      

執筆:くらもとさちこ

広島県出身。デンマーク人の夫、ティーンエイジャーの息子と三人で、コペンハーゲンで暮らす。30年に及ぶデンマークでの暮らしを営むとともに、幅広い文献にも目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関でも健康と栄養の学位を取得。20年近く食分野を中心にデンマークと日本の文化を紹介する企画や執筆に携わっている。2020年4月には誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。自身のホームページwww.kuramoto.dkとインスタグラム@sachikokuramoto.dkでは、折々のデンマークの食べごとやライフスタイルを発信している。

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