デンマークの暮らしと「ヒュッゲ」(35)<グレネスミネでの四季折々・5月>

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デンマークもようやく春たけなわです。

郊外には菜の花畑が黄金色に輝き、木々も若葉が力強い緑に変わってきています。暖流や偏西風の影響で高い緯度の割に温暖な気候ですが、5月は待ち焦がれていた春の到来という大きな喜びもあるため、ヨーロッパ全土で「最も美しい季節」と言われています。注1

教育や就労に特別支援が必要な若者が将来的に意義ある暮らしが営めるよう援助する企業「グレネスミネ」注2では、①厨房、②ベーカリー、③園芸、④鍛冶・木工房、⑤グリーンサービス、⑥コペンハーゲンドーム、⑦動物飼育、⑧ピットストップ注3の8部署で毎日の活動を行なっています。

デンマークには、精神的、身体的な理由で一般の教育を受けることが難しい16歳から25歳の若者に向けて「STU」という国家教育制度が用意されているのですが、「グレネスミネ」は「STU」という教育を受けることができる機関の一つです。各部署では、特別支援に理解ある主任一人あたりに6名の若者が就き毎日の課題をこなしています。一週間の時間割には仕事ばかりではなく、体操の時間や、日々の生活に必要な掃除や料理などの家事一般や計算、読解、衛生管理、性教育などの授業も用意され、「グレネスミネ」から「卒業」するときに、個人として自立した暮らしが営めることを目標にした教育に力が注がれています。そして、仲間と一緒に行う仕事や実習先での仕事を通じて、社会性と人生を豊かに暮らすための知恵や技術を習得していきます。

今回は、「グリーンサービス」という部署の活動をご紹介します。

「グリーンサービス」では、主任キムさんの元で6名の生徒が働いています。キムさんは舗装職人で、道や庭の整備のエキスパートです。デンマークの舗装職人は、主に石や煉瓦、タイルを庭や道に埋め込んで整備する専門家を指します。また、庭や道の杭打ち、垣根作り、草刈り、芝生敷き、雪掻き、雨樋の整備なども仕事の範疇となっています。「グリーンサービス」での仕事も、生垣の刈り込み、生垣用の杭打ち、タイル、石、砂利を道に敷く仕事、草刈り、雪掻き、雨樋の整備、畑の土起こし、再生ゴミの回収と運送など、舗装職人の職務に準じています。「グレネスミネ」の5.5ヘクタールの広大な敷地の整備の他、地元の教会や公共施設からの依頼も受けています。春は繁忙期を迎える準備、夏半期は草刈りや庭の手入れ、秋には落ち葉の清掃や冬に備えた準備、冬には雪掻きなど、四季折々の仕事が待っている他、他の部署での仕事に必要な庭や道の整備なども入ってくるため、いつも忙しい部署のようです。

取材に訪れた日に出勤していた若者は、17歳、18歳、20歳の男性3名でした。17歳と18歳の若者は、STU一年生、20歳の若者は卒業間近のSTU三年生で、皆揃って「グリーンサービス」の仕事を喜んでいる様子でした。「グリーンサービス」の仕事は大きな機械を扱うことが多く、力の要る仕事が多いため、外で働くことと力仕事が好きな男子が占める部署なのだとか。頷けますね。

17歳の若者は、与えられた仕事は何でも上手にこなし、素晴らしい出来栄えに仕上げることが得意なのですが、出席率50%というのがキムさんの頭痛の種です。また、公共機関をどのように利用して「通学」すればよいか、実際にバスや電車を使って指導する必要があるということでした。「グレネスミネ」では、スウェーデンにある山小屋に二泊三日の小旅行を行い、日常の日々と異なる形で社会性を養い、家事の練習をする目的の研修プログラムが用意されているのですが、これにも参加しなかったので、それをどのように補っていくかが今後の課題になるのだそうです。一人一人に合ったプログラムを組むのが基本だけれど、用意されている研修には無理のない形で参加して、せっかくの機会を享受してもらいたいというのがキムさんの考え方でした。

この若者の趣味は写真撮影で、いつもカメラを持ち歩き、時間を見つけては撮影しています。事務局では、その写真の一部をSNSに掲載し、「グレネスミネ」での活動を案内する手段として活用しているのですが、その説明をしているときの誇らしげな顔が素敵でした。

18歳の若者は、屋外での仕事、そして、力仕事や大きな機械を扱う仕事がとても面白く、充実した毎日を過ごしています。

20歳の若者は、STUでの最初の半年を、机上での勉強が中心の学校に通っていたそうですが、自分には合っていないことがわかり、「手仕事」に特化された「グレネスミネ」に「転校」し、屋外での力仕事が多い「グリーンサービス」で働いています。現在、STU三年生なので、これまでに培った技術を活かした実習に出かけることが多いようです。取材日の前の週まで3ヶ月ほど、高齢者介護施設で週3回の研修を行っていました。高齢者を車椅子に乗せた散歩が日課でしたが、高齢者がフレッシュな空気や美しい景色が楽しめる散歩を喜んでくれていることに大きな喜びを感じたそうです。次の研修先は教会で、教会の敷地の手入れを担当する予定です。将来、敷地を整備する仕事に就きたいので、教会の実習をとても楽しみにしている様子でした。

彼は仕事が終わった午後にアクリル画を描くのが趣味で、作品はカフェに展示されていました。一緒に休憩をしたカフェでは、嬉しそうに「もう、買い手がついているんだよ。」と教えてくれました。週末にケーキを焼くことも好きなのだそうです。

好天気の中、18歳と20歳の若者が気持ちよさそうに芝生の手入れをしている間、17歳の若者が、園芸部で花を育てるための畑の整備を黙々と行っていたのが印象的でした。花畑となる予定の畑の隣には、屋外でベーカリーが提供するおいしい焼き菓子やパンを楽しめるスペースが用意されるそうです。このスペースのタイル敷きも「グリーンサービス」の仕事なんだよと誇らしげに教えてくれました。自分のした仕事が人の役に立っていると実感できることがどれだけの意味があるのかを改めて考える機会になりました。

註1)    デンマークでの5月の特別感については、こちら(https://www.kuramoto.dk/lifestyle/foraarssang)でもご紹介しています。合わせてお読みください。

註2)「グレネスミネ」とは、デンマーク語で「グレネスを偲ぶ」という意味です。「グレネス」は、1969年に「平等」という全国組織を創設し、特別な支援を必要とする人々のために活動したインガ・アグネテ・グレネスという女性を指しています。この全国組織は現在も特別な支援を必要とする人々に関する支援活動や啓蒙活動を展開しており、「グレネスミネ」も特別支援学校などと並んで、この団体に所属しています。

注3)「ピットストップ」とは、本来、カーレース中に給油や修理のためピットに停車することを指しますが、グレネスミネでは、人生を進んで行く上での、ほんの少しの休憩所のような役割を持つ部署の名前として使っています。他の人よりも多くの特別支援が必要な若者が、必要とする支援を受けながら、次の課題に取り組む力が生まれるまでの期間を過ごすのがこの部署の役割です。

<謝辞> この記事の執筆にあたり、グレネスミネ広報部、グリーン・サービス部のご了解とご協力を賜りました。ここに感謝の意を表します。

写真協力: Jan Oster

執筆:くらもとさちこ

広島県出身。デンマーク人の夫、ティーンエイジャーの息子と三人で、コペンハーゲンで暮らす。

30年に及ぶデンマークでの暮らしを営むとともに、幅広い文献にも目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関でも健康と栄養の学位を取得。20年近く食分野を中心にデンマークと日本の文化を紹介する企画や執筆に携わっている。2020年4月には誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。自身のホームページwww.kuramoto.dkとインスタグラム@sachikokuramoto.dkでは、折々のデンマークの食べごとやライフスタイルを発信している。

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